福岡大学医学部麻酔科学 山浦 健 教授

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麻酔科医よ手術室の外にも出よう

略歴:1992 年九州大学医学部卒業、同附属病院麻酔科蘇生科研修医。福岡市立こども病院、聖マリア病院などを経て、2000 年Medical College of Wisconsin, Cardiovascular Center(Research Fellow)。帰国後、九州大学大学院医学研究院麻酔・蘇生学助手、麻酔科辛島クリニック、九州大学病院麻酔科蘇生科助教、同講師、九州大学病院手術部准教授を経て、2014 年から福岡大学医学部麻酔科学教授学会:日本麻酔科学会代議員、日本循環制御医学会理事など

 「手術室の指揮者」「手術の縁の下の力持ち」などと表現される麻酔科医。しかし、今、その役割ばかりではなくなっているようだ。

 福岡大学医学部麻酔科学の山浦健教授に、麻酔科医の役割や取り巻く環境の変化について、話を聞いた。

―麻酔科医の役割とは。

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 医療がどんどん高度・専門分化していく中で、患者さんが望んでいる目的(手術医療)を安全に達成できるようにすることが、私たち麻酔科医の大きな役割だと思っています。しかし、全国で行われている全身麻酔のうち、麻酔科医が手掛けているのは半分ほど、残りは専門外の医師がしているのが現状です。

―手術の件数が増加しているとお聞きしました。

 超高齢社会となり、手術を必要とする患者さんは増加しています。手術の件数は2025年には1.3倍に増加すると想定されています。しかも高齢の方は、心臓や呼吸器に合併症を持っている場合も多く、この併存疾患によって手術前の準備や術中、術後の管理が大きく変わるため、私たちは術前の診察・評価に特に力を入れています。

 2016年春からは、手術の前日ではなく、1~2週間前の時点で、患者さんを麻酔科医が診察し、評価する制度を導入する予定です。併存疾患の他に服薬を確認したり、禁煙を勧めたり。外科の主治医による診察とのダブルチェックで、術中の安全性をさらに高め、早期に退院していただくことが狙いです。入院期間の短縮によって、より多くの患者さんに手術医療を受ける機会を提供することにもつながりますね。

 現在ある手術室の数で1.3倍に増える手術をするとなると、効率的で安全な手術をする必要が生じます。その中で麻酔科医の役割は大きいでしょう。

 当教室では術後の痛みをとり、早期離床を促す「術後痛サービス」にも重点を置いていますし、肩の手術などでは術後のリハビリテーションのためにも末梢神経ブロックを積極的に行っています。

 少しでも早く日常に戻れるようにするのも、大切な仕事です。

―がん患者への緩和ケアの重要性が言われています。麻酔科としては。

 麻酔の歴史は「痛みをとる」ところからスタートしています。

 福岡大学は、開設当時から、痛みを治療する「ペインクリニック」が盛んです。当教室でも、麻酔科専門医を目指す場合にはまずは麻酔を通して急性痛の勉強をし、その後、慢性痛、がん性疼痛の診療へと、ステップを踏みながら学んでいきます。

 がんの疼痛緩和は、今、麻酔科医に特に求められている分野です。薬剤の進歩もあり、現在では外科医や内科医も積極的に薬剤を使用していますが、コントロールできない場合も多くあります。そのような場合、神経ブロックなど麻酔科医にしかできない痛み止めを行うこともあります。

 これからの麻酔科医には、どんどん手術室の外に出ていってほしいと思っています。

 がんの疼痛緩和は、経験が長い医師のほうが向いているかもしれませんね。痛みの緩和だけでなく、がんの患者さんが食事をとれなくなってきたという時には、集中治療で培った全身管理の経験も生かされるでしょう。

 また、麻酔科医はもともと、手術室でチームワークのバランスをとる仕事もしていますから、がんの患者さんに対して内科医、精神科医、看護師などとの連携が必要な場面でも、その力が発揮されると思います。

―麻酔科医の仕事は、増えているのでしょうか。

 手術麻酔以外にも役割はどんどん増えています。手術を安全に管理することから得られる管理能力として、医療安全の普及に大きく関わります。この中では学生教育、研修医教育も重要です。

 そのほか麻酔の基本は鎮痛ですから、手術室以外、麻酔科医以外でも行える痛みの治療法を普及させることでしょうか。ただ、痛みの治療は難しく、今後も麻酔科領域の主たる研究課題でしょう。

―こちらの教室は他科からの医師そして女性医師が多いですね。

 麻酔科は、急性期で遭遇する全身管理ができるほか、アナフィラキシーショックなどの急変への対応、他科で用いる鎮静や鎮痛法が学べます。ですから、ここで基本を覚えたいという人が多くいます。

 女性は現在2つの大学病院で働く麻酔科医44人のうち、7割近くの29人です。子育てをしながら勤務しやすい環境が以前からあるため、女性医師でもライフステージに合わせた勤務をしながらキャリア形成もできることが理由として挙げられると思います。実際、教官19人のうち8人が女性となっています。

 まだまだ女性が育児や家事を担っている部分が大きい現実の中で、麻酔科は、比較的、女性が医師としてキャリアアップしやすいのではないでしょうか。

―なぜ麻酔科医に。

 もともとは、救急に進みたいと思っていました。当初は外科からのアプローチがいいと思ったのですが、麻酔科からのほうがいいのでは、と勧められたのがきっかけです。実際に始めたら、麻酔科自体がおもしろくなって、今に至ります。

 専門は心臓麻酔。親が何度か心臓の手術をしたこともあり、興味がありました。麻酔が繊細かつダイナミックで手術自体の結果にも大きく関わる。その厳しさが魅力でしょうか。

 いくら医療が進んでも、ある一定のところを越えると、そこは神様の領域です。私たち麻酔科医は、そこに至る前のところで、危険な状況を回避しながら、本来の目的を達成するための土台をつくらなければなりません。ですから、そこで転ぶわけにはいかないんです。


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