「徳川慶喜と西郷隆盛」
今年は2016年だから、150年前は1866年である。ペリー来航の1853年から明治元年1868年までの15年間を幕末というので、150年前の日本はその渦中にあった。150年前の日本は、年号で言えば慶応2年であり、翌々年は明治維新ということになる。薩長連合が成立する一方で、徳川慶喜は将軍職に就く。年末に孝明天皇が崩御すると、世情はいよいよ風雲急を告げる。150年前とはそういう時代である。
昨年の正月休みから読み始めた『遠い崖―アーネスト・サトウ日記抄(朝日文庫)』はイギリスの外交官アーネスト・サトウの日記を中心に、多くの公文書等から得られた情報から、この幕末から明治への時代を鮮やかによみがえらせている。この時代を駆け抜けた人物のうち圧倒的な存在感を示すのは、徳川慶喜と西郷隆盛である。この二人の人生の上昇と下降が、一方は江戸幕府の盛衰、他方は西南戦争の帰趨と関連して、いずれも悲しいほど強烈に描かれている。小説ではない。表舞台で活躍する慶喜と裏舞台で暗躍する西郷の生きざまが、彼らと直接出会い、直接会話を交わした外国人外交官の目を通して描かれる。それは実時間の歴史を共有した者のみに許された記述であり、第三者の見た徳川慶喜と西郷隆盛が、幕末から明治という特殊な時代背景のもとで、いかに智者であり英傑であったかを実感することができる。
ほぼ一年をかけて読み切ったが、サトウが晩年に回想録として書いた『一外交官の見た明治維新 ( 岩波文庫)』を『遠い崖』と並行して読むことでさらに理解が深まり、久しぶりに読書の醍醐味を味わうことができた。読了して思わずため息の出るような本に出会うことを、年初から願っているのである。