健全経営を前提に、やさしい医療、患者さん目線の医療を提供する。
院長就任インタビュー&これからの医療を語る
4月に院長に就任されました。運営方針についてお聞かせください。
事業管理者の浅原利正先生といっしょに、「県立広島病院の存在意義をはっきりさせよう」という目標を立てました。地域医療構想にしてもそうですが、それぞれの病院が自らの立場を強く意識して独自性を出さなければならない時代になってくると思います。
県立病院に対しては、県民のみなさんが求めている機能、期待している役割があります。おそらく、当院が地域医療のみならず県内の医療機関の最後の砦のような存在になることも期待されているのだと思います。では、具体的にそういった機能を県民に提供できるかというと、まだ不十分ではないか。具体的には、当院では力を入れている三本柱、「救急」「がん」「成育医療」があります。がん関係について、件数はある程度増えていますが、もっと特色を出したい。成育医療については比較的充実していると思います。
大きく変わる方針は。
県立病院である以上、総合的な医療はもちろん必要です。基本路線は変わりませんが、総合病院という立ち位置について、認識を深める必要があります。当院では血液科以外のほとんどの医療を提供することができますし、研修医にも人気があり、教育的な面でも充実しています。しかし、総合性に加えて高度医療のなかでどのような特色を発展させていくのか、将来的にはその部分を見据えていかなければならないでしょう。
特色を出すのは難しいことですが、全体のバランスをみながら、まずは県民が必要としているかどうかを考えなければなりません。たとえば、災害医療への対応、救命センター機能、母子総合医療センターもそうですが、当院のそういった機能については、県民の支持を得ていると思います。
2025年問題は医療費抑制という大きなテーマと表裏一体です。
莫大な社会保障費をどのように負担していくのか。急激な人口減と合わせて考えると、基本的に医療費は抑制せざるを得ないでしょう。病院のありかたもそういう大きな流れの中で方向転換を迫られるかもしれません。当院は自治体病院ですが、今後はコスト意識や健全経営感覚を導入して病院全体に浸透させる必要があります。
自治体病院という特性を考えると、やりたい医療ではなく地域のニーズに沿った医療を提供していかなければなりませんし、ある程度の企業努力は求められるでしょう。公務員感覚で「仕事さえしていればいい」という時代ではないですね。
超高齢社会を迎えるにあたって、在宅医療がキーワードになっています。
在宅医療をサポートする機能などは、これから作っていかなければならないでしょう。
最近は、独居老人をどう支えるかという問題や、老後の生活破たんなどの、高齢化と不況に伴う社会問題が表面化しています。病気になると社会問題が目の前に現れるのです。社会のひずみが家の中に入ってくるこの問題を病院だけで解決することはできないので、地域と手を組む必要がありますね。公共性をもった当院のような自治体病院の使命だと思います。地域の健康を守るためには、コミュニティーをどう維持するのかということが重要です。
これからは後期高齢者が減少し、限界集落の問題も表出します。医療者が果たすべき役割は、地域が完全崩壊する前に、町やコミュニティーと一緒に地域の中核になることかもしれません。病院を中心とした町づくりも必要になってくるでしょうし、町のプランのなかで病院や診療所をどう位置づけるのか。医療者も患者さんだけを診るのではなく、行政と協力して、地域のこれからを考えなければならないでしょう。難しいことですが、とくに組織などで上に立つ立場の医師はもっと視野を広げなくてはならない。変化に対応して変わることができるか、変化に合わせられる機能を持っているかがカギになるでしょう。