これからの地域医療に期待したい
江戸時代に参勤交代の宿場町として栄えた根雨町。今もJR根雨駅周辺に、当時の面影が残る。日野病院の櫃田豊病院長に、地域医療について聞いた。
―人口減のすすむ山間部で踏ん張れる動機は。
大学に長くいて、2005年にこの病院の副院長として就任しました。その当時は患者さんも多く、医者として非常に多忙で、翌年に院長になってからは、この町の人や文化、歴史に触れ、それが大きなモチベーションになりました。医療的には恵まれておらず、高齢者世帯も多い地域で、医療者にやる気が出るのは、そこに住んでおられる人たちや地域の歴史に接するからだろうと思います。
―職員のやる気をどう高めていますか。
おそらく職員の8割以上は地元出身です。だから自分がこの地域を支えようとの気概はあると思います。でもそれだけでは内向きですから、そこに私は外の刺激を入れるようにしています。大学のほうに研修に行ってもらったり、大学から講師を呼んできたり、専門職としての勉強をしてもらったりして、目を外に向けてもらうようにしています。あるいは病院機能評価を受けるとかですね。それによって、当初とはだいぶ違ってきていると思います。
―この病院の未来像は。
地域の実情に合わせて変化していくことはあるでしょう。病院だけが変化から免れるということは、おそらくありません。1970年代、この病院に結核病床を抱えていた時は、189床ほどありました。今は高齢化や人口減少など、時代の変化への対応で99床です。これからさらに人口が減っていくだろうという予測に立てば、病院をどこまで維持できるだろうというのが大きな課題です。近隣の病院との統合とか機能分担であるとか、都市部の病院が指定管理するとか、そのような経営形態の変化も視野に入れているつもりです。
厚労省で今、地域医療ビジョンというのが進められていて、2025年までに日本全体の病床数を減らそうという流れがあること、自治体病院では公立病院の改革ガイドラインというものがつくられていて、これも圧縮の方向です。この地域も例外ではないと思いますから、対応を工夫する必要があるでしょうね。
この周辺の高齢化は都市部を20年〜30年くらい先行しています。したがって訪問診療や介護、福祉など、自然発生的に地域包括ケアができているので、自治体も入って基本構造は出来上がっています。これまではうまくやってきましたが、これからマンパワーが減ってきた時にどうなるかという危惧はありますね。
―鳥取大学の地域医療総合教育研修センターですね。
鳥取大学に地域医療学講座(谷口晋一教授)ができました。地域医療は地域で学習しなければなりませんから、その教育拠点病院になっています。この地域をフィールドにして学生に教えるわけです。
最近は、地域医療に関心を持っている若い学生がいっぱいいます。地域医療を体験しておくことは大切だと思います。
今、プライマリ・ケア学会とか地域医療に関連する学会はずいぶん活動が盛んで、これからの日本の医療を支える大きな勢力になるかもしれません。開業医が減り、後継者もいなくなった空白地帯を地域医療が埋めていく。医療の原点回帰だと思います。期待したいですね。
―研修医には何を話していますか。
いろんな話をします。なかでも、専門医療を身につけることは当然のことで、しかしそのそばに患者さん中心の医療があることを意識しておくこと、それから、我々のように地域医療に携わっている者は、逆に専門的な医療を目指そうとする気持ちもあったほうがいいと思います。両方のバランスが取れるようになるといいでしょうね。