大分大学医学部 呼吸器・乳腺外科講座 杉尾 賢二 教授
―大学病院と講座の特徴を教えてください。
外科の臓器再編にともない、2013年4月から呼吸器・乳腺外科学講座となりました。それぞれの臓器に特化した講座、診療科になりましたので、この2つの領域における診療、教育、研究に力を入れています。
私が教授になって2年半ほどたちます。最初の1年目は基盤作りに苦労しましたが、翌年には体制を整えることができ、現在では本来の役目である診療と手術に関して、呼吸器外科では、県内一の症例数となりました。特に肺癌診療においては、標準的治療と最先端治療のいずれにも対応できる体制を組んでいます。
乳腺外科に関しては、私は専門医ではないので教室全体をマネジメントして体制を作りました。講座と診療科、そのいずれにおいても、最先端治療を提供しています。
大分唯一の大学医学部ですので、県内の癌患者さんから信頼を得られる病院でなければいけないし、地域のみなさんにとっては、困った時にかかりやすい病院でありたいと思っています。
九州がんセンターに勤めていたころ、はるばる大分からたくさんの肺癌患者さんが胸腔鏡手術や抗がん剤治療を受けるために、がんセンターまで来ていました。そこで、私はこの大学に赴任して以来、学内はもとより県内の医師会や大きな病院と連携を取り、交流を深めてきました。その甲斐あって、今では地域のみなさんの信頼を取り戻せたと思っています。
さらに、医学部生や卒業生たちを確固とした倫理観を持った医学人に育てることも重要な課題です。卒前教育、卒後教育、そして研究家としての教育など、これらのすべてにおいて倫理観を持って取り組める医師であり、研究者であり、科学者であることが必要だと思っています。
―肺癌治療の現状と今後の展望についてお聞かせください。
毎年13万人が肺癌になり、そのうち年間7万3千人が亡くなっています。死亡率も高く、まだまだ治療がうまくいっているとは言いがたい状況です。
手術の分野においては胸腔鏡手術が普及していますし、今後はロボット手術も発達していくと思います。
特に大分大学の場合は、消化器外科の元教授でもある北野正剛学長が内視鏡外科のトップリーダーですし、それを引き継いだ現在の教授も非常に熱心です。内視鏡手術に関しては全国的にも非常に高いレベルにあることから、当大学では胸腔鏡手術を推進しています。
加えて胸腔鏡手術は、あくまで手術の方法であり、肺癌そのものを治すことには直接結びつきませんが、患者さんの身体への負担が軽くなるというメリットは大変大きいものです。
現在、早期の肺癌もかなり明確に診断できるようになりましたし、一定の基準のもと、早期であれば、少し小さめの切除手術でも根治性があることがわかってきました。
一方で、ある程度大きな肺癌となると従来の肺葉切除が必要です。たとえば、ⅠB期での手術は、再発率が約2割、Ⅱ期での手術となると再発率は4割くらいになる。つまり、手術だけでは治らない患者さんがいるということになります。現在では、抗がん剤、分子標的治療、放射線治療を組み合わせた集約的治療を推進・提供しなければならない時代になってきているといえるでしょう。
特に分子標的治療を適正に行うためには遺伝子検査が必要です。遺伝子検査といっても、体や血液ではなく、がん細胞が持っている遺伝子の変化を調べる検査です。現在、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子の2つが、あるタイプの肺癌細胞増殖の要因とされており、これらに対する分子標的薬で治療可能です。
こういった新しい薬の出現によって、手術できない進行性肺癌の平均生存期間が、1990年代にはわずか1年であったのが、現在では2〜4年に延びています。
手術に関しても、手術の前後に新たな抗がん剤や分子標的薬を適正に使用することで、より根治性が高まる可能性があります。治すための治療をする、再発した時には適正な薬剤治療をするということが非常に大事です。
実際には、情報として知っていても、使用経験が乏しいために気後れして使いにくいという声もあるため、県内の専門医を集めて定期的にセミナーや講演会を行っています。
何より患者さんの利益になることですから、これからも手術に加えて薬剤治療の普及に力を注いで行きたいですね。