九州大学病院 子どものこころの診療部

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精神医学的評価とケア・治療・支援でライフサイクルを通じて子どもと家族に関わる

 社会で生きにくさを抱える子どもやその保護者が頼り、門をたたく「九州大学病院子どものこころの診療部」。
2010年のスタートから5年が過ぎた。同診療部の吉田敬子特任教授に、特徴や、今後の方向を聞いた。

九州大学病院 子どものこころの診療部 吉田 敬子 特任教授

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■経歴:
1979年九州大学医学部卒業、小児科学を専攻。
83年精神科へ移り、子どもの精神医学を専攻。
88年英国モーズレイ病院児童精神医学部門留学。
90年ロンドン大学精神医学研究所留学。
92年同研究所研究職員、周産期精神医学部門で妊産婦の精神薬物療法と子どもの発達の予後を研究。
97年帰国、九州大学病院精神科助教、ロンドン大学精神医学研究所准教授。
2000年九州大学病院精神科講師、2010年から現職。

■所属学会等:
日本精神神経学会 精神科専門医、日本児童青年精神医学会 認定医、日本乳幼児医学・
心理学会 理事 編集委員、Archives of Women' s Mental Health 学会誌編集委員、日本精神神経学会欧
文誌(PCN)児童思春期精神医学領域Field Editor

九州大学病院子どものこころの診療部 神庭 重信 診療部長

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わが国には児童精神医学の専門医が極めて少なく、全国の大学病院の中でも児童精神科の専門的な臨床サービスを提供・開発しながら臨床教育・研修ができるのは数カ所に限られます。一方で、子どもの心の問題への診療ニーズは増え続けています。また緩和ケア、臓器移植、小児科救急、周産期包括ケアなどへの児童精神科医の参画も求められています。精神科、小児科、産婦人科など関係各科と連携して、診療はもとより、人材育成と教育活動にも力を入れる必要があります
(九州大学大学院医学研究院精神病態医学分野教授)。

児童精神医学の臨床、教育、研究を担う

 児童精神医学領域をカバーする「臨床」、専門家養成のための「教育研修」、そして「臨床研究」、その3つをつかさどるのが九州大学病院子どものこころの診療部です。

 大学病院の中に当然あるべき診療部だと思いますが、医師研修における場として児童精神医学領域を設けているところはわが国の大学ではそう多くありません。そういった意味で、九州大学病院にこの診療部ができたのは良かったと思います。

胎児から一貫して子どもと家族に関わる

 子どもで言えば、初診年齢が0歳から15歳までを診ています。非常に小さい「0歳」という段階から診ることができるのが特徴のひとつです。

 もっと言うと、われわれは、子どもがお母さんのお腹の中にいる胎児の段階からその子の情報を得ています。

 産婦人科と連携して、妊娠、分娩、出産後のメンタルヘルスに問題がある女性と胎児を診る。さらには産まれた赤ちゃんと養育者である母親、父親、きょうだいといった家族も、一貫して診ていく。このように、ライフサイクルを通じた子どもと家族の総合的な精神医学的評価と、それに続いたケア・治療・支援を行っているというのが大きな特徴です。

ロンドン留学がひとつのきっかけに

 私は1990年から1997年までロンドン大学精神医学研究所周産期医学部門に留学しました。当時は英国が産後うつ病研究の先駆者で、ロンドン大学には児童精神医学と、それとは別に周産期精神医学という部門があったのです。

 1997年に九州大学に戻り、さっそく、当時の産婦人科教授であった中野仁雄教授と一緒に、「妊産褥婦のメンタルヘルスと育児支援」ということで厚生労働省(当時の厚生省)で研究を始めました。

 帰国してから5〜6年は国際産後うつ比較研究も行い、2001年からは看板こそ掲げていませんでしたが、メンタルヘルスに問題を抱える女性を、精神科の児童精神医学グループと産婦人科が連携して、「母子メンタルヘルスクリニックのチーム」として、妊娠中から出産後数カ月まで一貫して、診ております。

 そのような経過から、「子どもだけを診ていてはいけない」という気持ちが強くあります。家族のメンタルヘルスを同時に評価することが治療にも必要なことなのです。

 2010年にこの診療部ができてからは、小児科の新生児グループ、小児神経グループとも患者さんの情報を共有し、子どもや家族のメンタル面のサポートをしています。

早期からの関わりで負担軽減、費用抑制、予後改善

 この診療部の受診者の7割は発達障害のお子さんと言っても過言ではありません。知能テストでは測ることができない、友達関係、癇癪(かんしゃく)と言った情緒の部分や多動などの行動の部分は、児童精神医学の分野になります。

 知的な発達に遅れがない高機能の軽度発達障害がきちんと評価されていないと、子どもは学校などで負担が大きくなります。また養育者は、過大なイライラやストレスを抱え込むことになってしまいます。

 早くから子どもと家族を同時に支えることが大切で、そうすることで、入学時の引き継ぎも、きちんとできるのです。

 約10%の母親にみられる産後うつ病も、早期の発見、ケアが重要です。産後うつ病はほとんどの場合治ります。母子関係に支障をきたす期間を短くし、育児機能を早く高めることで、思春期まで及ぶ子どもたちへの影響を軽減できるのです。

 損なわれた健全な情緒の発達、認知発達は学童期、思春期にまで影響が出ることが分かっています。欧米の研究では、早期に支援が入れば、子どもの予後が変わり、後から特別支援教育などの対応をするよりも、医療経済的にも負担が軽くて済むという実証データが出ています。

児童精神医学の専門家育成も牽引

 2010年にこの診療部ができたことをきっかけに、文科省の特別経費で教育研修活動ができるようになりました。そこで、私が一時期留学していたロンドン大学のモーズレイ病院の講師たちを招き、児童精神医学を学びたい人向けのセミナーを開くことにしたのです。

 同病院には児童精神医学の確立した講座があり、全世界から児童精神医学を学びたい人が集まっていました。その世界水準のセミナーを、2010年から昨年まで毎年開催し、その教材を精神科のある全国の大学病院や総合病院、また参加者などに配布してきました。

 今年は最後の年。総まとめとなる教材を編集中で、来年春までには発行できると思います。

地域での活動から高度専門まで

 今後は、現在あるこの診療部の特徴をさらに強化していきたいと考えています。ひとつは育児に多くの支援が必要な家族に「子どもを育てる」という面から専門医学で関与していくこと。すでに連携している産科や小児科とは、現在合同で定期カンファレンスをしておりますが、今後は、小児外科などとも、小児医療の連携の意味から、ケースの検討などを一緒に行い、さらにつながりを強めていきたいと思います。

 また、子どもの問題が大人になっても解決されない「キャリーオーバー」のケースについても援助・フォローアップをし、しっかりと重なる部分「のりしろ」をつけて成人の精神医学へ連携していく必要があります。

 その患者を最初に診た者として、成人になった予後まで見るということは、とても大切なことですし、われわれの診断評価や研究のヒントにもなります。「児童精神医学だからここまで」と区分する医療は、もう時代遅れだと思います。

 さらに、離婚家庭や貧困家庭の増加などによって、これまでも続けてきた児童相談所や社会福祉スタッフとの連携がますます重要になっています。

 九州大学の児童精神医学は歴史が長く、福祉の分野にある程度関わることができています。とは言え、不適切な養育環境にあって情緒や行動の問題が制御できない子どものケアなどに、もっと一緒に取り組んでいく必要があると感じています。


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