近視眼的な視点からの脱却が必要です

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独立行政法人国立病院機構 鳥取医療センター 下田 光太郎 院長

下田 光太郎  1978 長崎大学医学部医学科卒業、同年鳥取大学医学部脳神経内科入局、1980 同精神科教室研究員、1981 鳥取大学医学部薬理学、臨床薬理学教室、1983 鳥取赤十字病院神経内科副医長、1984 鳥取大学医学部付属病院脳神経内科助手、1987 米国ネブラスカ州立大学医学部薬理学教室神経内科学教室留学(Visitingfellow)、1988 米国国立衛生研究所留学(NIH、NIMH、Visiting Scientist)、1991 国立療養所西鳥取病院内科医長、1998 同副院長、2002 同院長、2004 独立行政法人国立病院機構西鳥取病院院長、2005 独立行政法人国立病院機構鳥取医療センター副院長、2007 同院長 現在に至る

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■結核療養所からの転換

 2005年に鳥取病院と西鳥取病院が統合して現在の鳥取医療センターになりました。

 もともと鳥取病院も西鳥取病院も結核療養所でしたが、結核患者の減少により西鳥取病院は重症心身障害者や神経難病などの障害児者医療、鳥取病院は精神医療へとシフトしていきました。両者の統合によって鳥取医療センターは、子供から大人まで、脳に関わる疾患を診断治療する病院となりました。

 当院は統合前よりの、それぞれの専門的な医療を継続するとともに、新たに心身喪失等の状態で重大な他害行為を行った人に対する医療観察法医療を始めました。さらに地域から要望の強い回復期リハビリテーション医療を整備し、また患者数の増加に備えて、発達障害、学習障害、認知症の専門外来医療を行っています。

 現在当院はかつての結核療養所から脳に起因する疾患を子供から大人まで幅広く診られる施設へと変貌し、さらに地域における高齢者に適切な医療を提供する病院へと進化しています。高齢者を診るために安全安心で、かつ最新最善の医療を提供すべく施設整備などを行っています。地域と連携しながら、在宅医療を大切にすることを心がけているところです。

 また当院は臨床研究部を併設しており、疾患遺伝子の研究や生命科学的な研究にも取り組んでいます。病気に至る過程を解明することで、それを防止するためのシステムを作ろうとしているのです。一朝一夕にできることではありませんが、これからも力を入れていくつもりです。

■疾病に対する理解を深めてほしい

 現在、国内には認知症患者が400万人いると言われていますが、団塊の世代が後期高齢者となる2025年にはその数は700万人を超えるとの推計もあります。当院では認知症専門外来を開設し、記銘障害、見当識障害等の中核症状の診断治療を行っています。さらに周辺症状として妄想幻覚、徘徊、暴力などがある人に対しては精神病棟で入院治療し、症状が落ち着けば住み慣れた地域に帰って頂くシステムを確立しています。

 認知症の患者さんに対するDVが問題になっていますが、私は疾病に対する理解が少ないこともその要因になっているのではと考えており、認知症診療をするにあたっては家族に対する疾病教育に積極的に取り組まなければならないと痛感しています。

 病気になったり障害を持ったりすると視野が狭くなりがちですが、疾病に対する理解を深めることで疾病を疾病として、障害を障害として感じなくなることもあります。

 目の見えない人は、ほかの感覚が研ぎ澄まされます。神経学的には感覚中枢は頭頂葉に、視覚中枢は後頭葉にあると考えられています。子供のときから視力がない人は後頭葉が発達しないと思うかもしれませんが、後頭葉は立派に発育しており、その情報は他の知覚から来ると考えられています。視覚がない人に対して健常者は視覚障害があると思いがちですが、それは障害ではなく、その人が持つ個性です。心持ちひとつで病気のとらえかたも変わってくるのではないでしょうか。

■収益至上主義への警鐘

 医学にできることには限りがあります。その限界を知らねばなりません。ヒトの最高寿命は120歳といわれています。ヒトの欲望はキリがなく、もっともっと長生きしたいと望むのは古今東西、人の常ですが、科学が発達した今こそ、加齢や病気を受容することが必要です。与えられた天命のなかで、いかに健康に生きるかが重要なのです。

 日本人は国民皆保険制度のもと、少しでも寿命を延ばそうとする医療を享受してきました。しかし、いかに医療が進歩しても救えない命、治らない病気は存在します。日本人は全力を尽くせば治る可能性はゼロではないと考えがちですが、そのような医療を続けていけば、いつしか国家財政は破綻してしまいます。

 患者さんのご家族から過剰な医療を要求されたとき、医師は「本人のためにならない」と説明すべきですが、それを言ってしまうと病院の収入が減ります。患者や家族は少しでも心臓が長く動いてほしいと思います。一方、病院は収益をあげたい、双方の気持ちは理解できますが、いつまでもそうは言っていられません。

 近年、患者さんの尊厳を無視した医療適用が散見されます。医療は患者さん自身のためにあるのですが、現実には収益至上主義に走っていると感じざるを得ないことが多々あります。今後は医療を財政的な立ち位置からみていくことも必要になってくるのではないでしょうか。

 病院管理者は収益のみを求める近視眼的な視点のみでなく、国家の医療財政を見据えた広い視点から医療をとらえていく必要があります。財政に十分な余裕があれば話は別ですが、少子高齢化がすすむ日本で、現在の社会保障費、医療費の増加をみると、危機的な状況になってきています。国民全体のコンセンサスを得るのは難しいと思いますが、今後とも政府が旗振り役となって解決していくことを期待しています。


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