医療法人 啓愛会 眞鍋 哲郎 理事長
医療法人啓愛会は、法人内に白梅病院のほか、老人保健施設、通所リハビリテーション、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所を備え、従業員数は221人。開設以来、一貫して地域密着型の高齢者医療を続けている。
眞鍋哲郎理事長に今後の方向性と課題について話を聞いた。
◆在宅医療を強化
1971年に父が前身の白梅医院を19病床で開業させました。
開業するまでの父は、いわゆる「町のパン屋」を経営しており、医療とはまったく違う業界にいたんです。医師でもない父が、なぜ医療福祉、介護の領域に進んだのかというと、自らが描く理想の高齢者医療を提供したいとの思いが強かったからなんです。医師のみなさまの協力もあって開業することができました。
これまでは当院で在宅医療をしていましたが、町の中心部から遠いこともあり不便でした。そこで、昨年9月に在宅医療を主体とした「まなべクリニック」を水俣の中心部に開業しました。クリニックの近くには訪問看護ステーションと居宅介護支援事業所を設置して動きやすい体制を整えています。
◆地域医療の危機
厚労省が進めている地域医療構想計画は、とても頭が痛い問題です。
現在60床ある介護療養病床が全廃の流れになっているので、老人保健施設や医療療養型病床に転換せざるを得ないのかとも考えています。
熊本県には2次医療圏が11あります。先日、当圏域でも1回目の地域医療構想会議が開かれました。
「医療費削減が目的ではない」と言いつつも、会議の主題はもっぱら病床削減で、地域の医療・保健関係者に数値目標を課して、その目標を達成できなければ罰則を科すという話も出ています。
私は現在の医療・介護体制が国の都合で組み替えられることに納得がいきません。地域住民から「医療・介護は十分足りているので病床を減らしてくれ」などの声があれば納得できますが、そんな意見はどこからも聞こえてきません。
2年で医療計画を立てろというのはあまりにも無謀です。国が医療を先導している現状は腑に落ちませんが、決められたことには従わざるをえません。
このままでは近い将来、地域医療が崩壊しかねません。患者さんのご家族から「うちの両親はどこで診てもらえるのでしょうか」と言われるのを想像すると恐ろしいですね。
◆人材確保の取り組み
病院にはあらゆる専門職が集まっています。その人材を集めるのも私の仕事です。
人口減で、消滅可能性都市というありがたくない称号を与えられている水俣市においては、募集を出してもなかなか人が集まってくれません。そこで数年前から事務長、看護部長らと高校や専門学校の就職相談室を訪問して説明会に参加したり、情報が入れば関西などにも出向いて法人の魅力をお伝えしています。
水俣市は知名度こそ高いですが、移住するとなると相当の覚悟が必要です。今でも看護職、介護職員、調理員の確保に苦戦しています。今後は外国の方にも協力をお願いせねばならないと考えています。
幸いなことに、要である医師に関しては紹介や友人の助けもあり充足しています。
◆患者さんの幸せが第一
都会の医師は、どうしても専門医志向が強くなりますが、地方では幅広い領域を診ることが求められます。
私も専門性を高めることへの憧れはありますが、私たちに求められているのは地域の患者さんを救う「町医者」の役目です。時代に逆行しているかもしれませんが、この道をこれからも歩み続けるつもりです。
近年、医療人の中身が変わってきて、悪く言えばドライになってきました。私は