静岡県立静岡がんセンター 玉井 直 病院長
■略歴 1950 年岐阜市生まれ。1975 年京都大学医学部卒業。日本麻酔科学会指導医、集中治療専門医。2000 年10 月より静岡県庁技監として静岡がんセンター開設準備に当たり、2002 年4 月開院時より麻酔科部長として診療に従事。2011 年1 月、病院長に就任し、現在に至る。2013年5 月より静岡県病院協会会長を務める。
開院13年目にして、診療実績の高さを誇る静岡県立静岡がんセンター。病院長であり、静岡県病院協会会長も務める玉井直院長に、「地域医療の未来」への思いを聞いた。
―日々の仕事の中で、病院の特徴をどのように実感されていますか。
2代目の病院長として4年半が過ぎました。
もともと、私の専門は麻酔科であり、手術の麻酔と集中治療に専門的に関わり、がん患者の診療に直接関わることはほとんどありませんでした。当初は、果たしてがんの専門知識や臨床経験の少ない者が、「がんセンター」という専門性に重点を置く当院の病院長になっていいものか悩みました。
がんの治療は、「手術」「放射線治療」「薬物療法」の3つが軸になります。麻酔科医としてがんの手術にはたくさん関わってきたため、外科の先生とコミュニケーションがとりやすいという点を支えに、全体を取り仕切る責務を引き受けました。
当院は、「患者さんの視点の重視」を基本理念として、「がんを上手に治す」「患者さんと家族を徹底支援する」「成長と進化を継続する」と患者さんに約束をして、多職種チーム医療を実践しておりますが、このことは、開院13年目の今も変わりません。
毎年重点的に取り組むテーマは決めていますが、基本方針を具体的にどう実行するかという話です。
―4年半の成果について教えて頂けますか
一番大きなことは、ダヴィンチ手術を本格的に始めたことです。2002年当時は、保険適用されていませんでしたが、将来的には保険診療が認められるのを目指し臨床研究という形でやることを決断して、患者さんの費用負担なしで始めました。
その後すぐ、前立腺がんが保険適用されました。大腸がんについては、先行投資している分、日本一の症例数があります。一定の短期間に集中して症例を重ねることで、技術力が上がります。結果的に、現在では、日本で消化器系のダヴィンチ手術を受けるとしたら当院が一番という評価を得ています。
胃がんは、一部先進医療に認められましたが、大腸がんはまだですから、病院が費用を一部負担して自由診療で実施しています。
―今後の方向性について聞かせてください。
当院は、がんの診断から緩和ケアまで一貫して診る包括的がんセンターです。
「地域医療構想」という形で、日本全体が超高齢社会にどう適応するかという問題意識があります。その中で、当院のようながんセンターをこのままの形で継続するのか、また、医療連携、在宅医療とどのように結び付けていくかが、今後一番大きな課題です。
静岡県は、東部・中部・西部の3つの地域に分けられますが、東部にあたる当地域には、もともと大きな病院がなく、住民の方の要望で開院しました。
西部は、大学附属病院があり、伝統ある病院の数も多く、医療の充実は早期から図られてきました。中部は、静岡市を中心に、都会型医療の環境があります。その中で、私たちの東部は、中小規模の病院しかなく、伊豆半島などの過疎地のことも考える必要があります。
もうひとつ、全国のがんセンターのうち、小児科があるのは当院と新潟だけです。
また、高額設備が必要な治療法ですが、開院以来「陽子線治療」を行っており、小児の陽子線治療が出来る施設は、当センターと筑波大学だけです。先進医療のため、1度の治療に約300万円かかるところを2年前から無料にして臨床研究として実績を重ね、保険診療適用を目指しています。
さらに、今は「世代ごとのがん対策」が言われており、患者数は少ないのですが、15歳未満の小児がん、30歳未満のAYA(Adolescence andYoung Adult) 世代の患者さんへの対応が重要と考えています。
当院には、子どもの心理面や家庭の問題をサポートする「チャイルドライフスペシャリスト」という職種があり、米国の大学を卒業したスタッフが活躍中です。今年、小児病棟を改装移転して、AYA世代患者を含めた病棟として運用を開始し、単に治療するだけでなく、他の病棟とも連携して、看護師を含めた多職種でサポートする体制を今年から始めています。
なお、病院にとって重要なテーマである医療安全については、多職種による情報共有が最も欠かせないことだと考えています。
―医師を目指す人へ。
静岡県は夏休み期間を利用して医学部進学を志望する高校生に対する「こころざし育成セミナー」を実施していますが、当院も8月に開催します。医師は病院や診療所で医療にかかわるだけでなく、行政職や大学の研究者など、医師としての生き方や選択肢はいろいろあります。医師は、さまざまな面で社会と人の生活にかかわることができます。それを楽しみに、勉学に励んでほしいと思います。