希少糖の制がん作用研究=香川大学 星川 広史 教授
全国でも珍しい希少糖の研究センターを持つ香川大学。同大学の星川広史教授は希少糖のもつ制ガン作用に注目している。4月に耳鼻咽喉科学教授に就任した星川教授に話を聞いた。
―医局の特徴を教えてください。
10人ほどの医局ですが、20代から40代前半と、比較的若いスタッフが多いことが特徴です。
教授就任にあたり、前任の先生が一つひとつ丁寧に積み重ねてこられたことを大切にしています。医学生たちが気軽に語り合えるように、教授室に喫茶店のようなカウンターを作って、くつろげる雰囲気に一新しました。
―耳鼻科というと開業医の先生に中耳炎などを診てもらう印象があります。
耳鼻咽喉科も最近は「耳鼻咽喉科・頭頸部外科」と標榜することが多くなりました。これは、耳鼻咽喉科では中耳炎や蓄膿症の治療だけでなく、がんを含む「頭頸部の外科手術」も行うということを知っていただくためです。
大学としては、「耳鼻咽喉科学講座」、病院としては「耳鼻咽喉科・頭頸部外科」と標榜しています。
私の専門は「頭頸部腫瘍」です。頭頸部のがんは、喫煙や飲酒といった生活習慣が主なリスクファクターですが、最近では、ウイルスが関与してがんを発病するケースも増えてきています。たとえば、扁桃腺にがんができる「中咽頭がん」は、子宮頸がんと同じで「ヒト乳頭腫ウイルス」が原因です。
また、私は「希少糖の制がん作用を用いた新たな治療法」についての研究も行っています。
10年ほど前に、当学農学部の何森健(いづもり・けん)先生が、天然では少量しか採れない希少糖の大量生産に成功しました。現在は当学に設置されたセンターで研究が進められており、国内外の注目を集めています。
希少糖の一種であるプシコースは、砂糖の7割程度の甘さですが、ローカロリーであることが特徴です。血糖値の上昇や糖が脂肪として体に蓄積されるのを抑える効果があります。
40種類ほどある希少糖の中でもキシリトールなどが有名ですが、私が研究しているのは、がん細胞の増殖を抑える生理活性効果がある「アロース」という種類です。
抗がん剤として薬品になるというところまでは至っていませんが、髪の毛が抜けるなどの副作用を持つ抗がん剤と比べ、あくまでも「糖分」である希少糖は他の臓器への負担やリスクがなく、がん治療分野において希望の持てる研究だと思います。
―今後取り組んでいきたいことについて。
教授になったことで「教育」の大切さについて改めて実感しています。
私は、医学生を「学生」とは呼ばず、患者さんにも「若い医師」と紹介します。
手術の場では、私たちが見守っている責任の下で、実際に注射を打ち、メスを持ってもらいます。医者として患者さんの治療に実際に加わっているんだ、という意識を持ってもらうためです。
メスを持つ角度や力の入れ方、電気メスでの焼灼なども、実際に自分がやってみるのと、ただ見ているだけでは、意識の持ち方がまったく違い、経験することで顔つき、視点、意識、姿勢、すべてが変わります。
昨年までは当科に二次研修を受けに来てくれる医学生の数が2〜3人だったんですが、昨秋から実際に「やってもらう」スタンスに変えたのが功を奏したのか、今年は11人来てくれました。方針は間違っていなかったかな、と思っています。
医師人口30万人のうち、耳鼻咽喉科の医師はその3%にあたる約1万人しかいません。私が医師になった20年前は開業医約4000人に対し、勤務医およそ6000人でした。
ところが、数年前のデータでは、その数が逆転し、かつ手術する件数は以前の倍に増えています。
高齢化が進むことを考えれば、手術ができる勤務医を増やす必要がありますし、首都圏に行かなくても、香川できちんと手術が受けられる体制を整えることも大切だと考えています。
教授就任を受けた当院のニュースレターにも書きましたが、耳鼻咽喉科の医師として「より良く生きるためのお手伝い」ができればと思っています。
健康寿命を延ばす医療が提供できるよう、医局員とともに「それぞれの人が、目の前にある、今やらねばならないことを、やっていこう」と考えています。