中川原 章 佐賀国際重粒子線がん治療財団理事長 就任
6月、佐賀国際重粒子線がん治療財団の2代目理事長となった中川原章氏。同財団が運営する九州国際重粒子線がん治療センター(サガハイマット)は2013年の治療開始から順調に治療患者数を増やしている。がん征圧月間の9月を前に、今後の展望を中川原新理事長に聞いた。
―就任から1カ月余。今の気持ちを聞かせてください。
私は小学5年の時に父親を胃がんで亡くしました。「がんに敵討ちしたい」。それが私が医師を志した理由です。
昨年、佐賀県のがん対策を含む医療強化をするようにと佐賀県医療センター好生館に呼んでいただき、さらに今回、このサガハイマットの理事長に。どちらもがんに関わる仕事で、これ以上の場はありません。医師人生の終盤にこのような職を与えていただいたことに感謝しています。
―今後の展望は。
診療開始から2年、サガハイマットは十時忠秀初代理事長の下で着実に実績を重ねてきました。これを受け、将来に向けた態勢固めをし、新しい戦略を立てていくのが2代目である私の役目です。
現在、広域の医療連携はいい形でできていますから、次のステップとしてアカデミア(学術研究機関)との連携強化を考えています。
重粒子線治療は日本とドイツが開発した治療法で、理論が先にあって誕生したものです。素晴らしい治療法ですが、最先端の医療のため、治療法をどう展開していったらいいのか未知の部分がまだ多くあります。
大学とのアカデミックな連携で研究・開発に取り組み、それに基づいて今後の展開を考えていく必要があると思っています。
がんの治療には、重粒子線を含む放射線治療のほかにも、手術、化学療法、免疫療法などがあります。化学療法や免疫療法との組み合わせをどうしたらいいか、より少ない照射量で効率良く治療するにはどうしたらいいか、という研究が重要だと考えています。ほかの最先端治療との併用も考えないといけません。
重粒子線を基盤に「がんを効率的に殺す」ためにどうすればいいのか考えていきたいと思っています。
そのためにも、臨床試験の評価体制をより充実させたい。がんには300以上の種類があり、重粒子線で治療できる範囲もどんどん広がってきています。効果を正しく評価し、国内外にアピールできる体制が必要です。
がんは慢性疾患です。再発、後遺症などさまざまな問題がありますから、治療後の患者さんが地域へ戻った後もフォローが必要で、そういった意味でも、アカデミアとの連携は不可欠です。
―財団とセンターの名称に「国際」と付いていますね。
今は外国からの患者さんはゼロ。まず、国内の患者さんが優先です。しかし、がんの患者さんは世界中にいますので、これからの課題の一つだと思っています。ここ鳥栖はアジアから近いですし、交通の便もいい。この地の利を最大限に生かすことがサガハイマットの責務です。
―がんを取り巻く環境はどう変わってきましたか。
私が学生だったころはがんがどうしてできるかわかっていませんでした。しかし今は、がんに関係する遺伝子やがん発生のメカニズムが分かり、分子標的薬も登場しています。不治の病から3人に2人が治る時代へと変わり、患者本人への告知もされるようになりました。
サイエンスは日進月歩です。今後10〜20年で8割ぐらいの人が治るようになればと思っていますし、その先頭を切って、がん治療をいかに進化させるかが私たちの課題だと強く感じています。