香川大学医学部内科学講座 血液・免疫・呼吸器内科学 門脇 則光 教授
■所属学会:日本内科学会、日本血液学会、日本免疫学会、日本癌学会、日本がん免疫学会 他
■我欲を捨てる
私は今年4月に当講座の教授に就任しました。香川に来て感じたのは、街も人も素晴らしく、本州へのアクセスも良好で、とても住みやすい場所だということですね。
香川大学血液・免疫・呼吸器内科と地域医療の発展に尽くすことはもちろん、みなさんが入局して良かったと思える教室運営を心がけていくつもりです。
教授に就任して自らに誓ったのは「我欲を捨てる」ことです。己を犠牲にして患者さんや教室員に尽くすことが教室の繁栄につながると確信しています。
■3科の有機的な連携
当教室は血液内科、膠原病・リウマチ内科、呼吸器内科の3科が1つになった講座です。
これらは一見バラバラに見えるかもしれませんが、それぞれに共通項があるんです。
私は免疫学を専門に研究してきました。3科それぞれに免疫学が大きく関連しているので、免疫学を軸に3科を有機的に連携させていくつもりです。
■進化したがん免疫療法
今後は、がん免疫療法に力を入れていきたいと思っています。この治療法は昔から行われていましたが、世間からは有効性を疑われていました。しかし、がん免疫療法が、サイエンス誌の「2013年ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」を受賞したことで、一気に注目を浴びることとなりました。
今後は、免疫療法同士の組み合わせや既存の化学療法、放射線療法、分子標的薬、外科的手術などと組み合わせた複合的がん治療で、患者さんにより良い治療を施すことが可能になります。
当科に関係するがんに免疫療法を施すのはもちろん、すべてのがんが対象になるので、他科と連携し、疫学的側面から香川大学のがん治療に貢献していくつもりです。
これから免疫療法が、がん治療において重要な役割を果たしていくことは間違いありません。可能性は無限なので、一人でも多くの人が、当講座の門を叩いてくれることを願ってやみません。
■生まれ変わっても医師に
医師の仕事は人の役に立てるし、治療が成功すれば患者さんや、ご家族に喜ばれて、とてもやりがいがあります。
内科医は、症状に対して探偵さながらに診察や検査という名の謎解きをします。診断がついて治療方針を決めるとき、エビデンスに基づいた治療と個々の患者さんに合わせた治療を組み合わせます。
医療には、基本的な知識はもちろん創造的、直感的感覚も必要です。両者の融合で、はじめて治療が成立します。最適な治療法を模索し、発見することが重要です。
世の中にはさまざまな仕事が存在しますが、私は生まれ変わっても医師になろうと考えています。若い人には、医師の仕事の素晴らしさ、医師になれる幸せを認識してもらいたいですね。
ひとくちに医師と言っても分野により、大きく性質が異なります。どこを選択するかは、打算や他者から言われて決めるのではなく、自分が直感的にいいと思える科を選択するべきではないでしょうか。
私も最初から血液内科に進むと決めていたわけではありません。研修でいろいろな科をまわるうちに「いいな」と思えたのが血液内科だったんです。考え方は人それぞれですが、自分にしっくりくる科を選ぶことが大事だと思います。好きではない分野をずっとやるのは精神的につらいと思いますよ。
■目の前のことに全力を尽くす
医師は人間を相手にする職業です。世界観は人それぞれです。他者の意見に簡単に立腹することは他者の世界を理解できないのと同義です。相手への想像力を働かせることこそが若い医師が仕事をするうえで必要な能力ではないでしょうか。
仕事には雑務が存在します。雑務を粛々とこなしていくことも必要です。日常の煩雑な仕事の処理が、自己への修練にもなります。
どんな職業にも当てはまりますが、自分を支える日々の心構えが大事です。良い人生を過ごす根本原理はいたってシンプルです。古来より存在する数少ない行動哲学から人生の多くは成り立っています。
「目の前のことに全力を尽くす」、その積み重ねこそが道を開きます。みなさん頭では分かっていると思いますが、実際にできるかどうかで天と地ほどの差が生じます。
人間の性で、どうしても易きに流れてしまいがちですが、流れに逆らう強固な意志を持ってください。楽な道を選択し続けると、最期の間際になって後悔の念にかられるでしょう。人間とは習慣の動物です。易きに流れないことを繰り返すうちに、いつしか習慣にできるようになるものです。
「本当に大切なものは失ったときにしか気づかない」という言葉があります。過去を振り返ると後悔することが多々ありますが、「ここでがんばることが将来、きっとプラスになる」、と自分に言い聞かせて目の前のことに全力で尽くしてほしい。そうすれば大切なものを失わずに生きられるはずです。
■研究心を持つ
医学部の学生は、みなさん成績が良かったと思います。医学部での勉強も教科書の内容を覚えることがほとんどです。臨床の多くも新しいことを発見する作業ではありません。しかし研究は、新しいアイデアを生み出す創造的な作業です。結果が出る保証がないので、これまでやってきた勉強とは根本的に異なります。そこに多くの人が壁を感じ、あきらめてしまうんです。
人生の一時期、熱心に研究に取り組み、自分の頭で考えるトレーニングを積むことで、新たな世界が開けるはずです。小さくても価値のある発見をすれば、心が満たされて充実感と喜びが得られます。
熱心に研究に取り組めば、必ず臨床にもフィードバックできるので、たゆまぬ研究心を持ち続けてほしいですね。