公益社団法人鳥取県中部医師会立 三朝温泉病院 森尾 泰夫 病院長
◆地域で果たすべき役割
当院は1939年に開院。主な診療科は整形外科・内科・神経内科・リハビリ科です。高齢者医療に力を入れていて、整形外科は、急性期から慢性期まで診ています。
開院当時、傷痍軍人が、急性期治療を終え復帰するまでの間、リハビリと湯治を兼ねて送られて来ていたのが温泉病院のはじまりです。昭和40年以降は、主に高齢者やリウマチ・脳卒中の患者さんを中心に診ています。
平成に入って国立病院の再編成により小規模病院の統廃合が進みました。2000年3月、鳥取県中部地区の医師会に経営権が委譲され、以後は医師会立病院として運営されています。
私は2003年から当院にいますが、この10年提供している医療は、それほど大きくは変わっていません。近年、急性期病院は在院日数を短縮する必要が生じており、当院の特色の「ゆっくりと療養する」ことは難しくなってきましたが、急性期医療のみでは経営が成り立たないため、療養に力を入れています。
社会復帰や在宅復帰が困難な患者さんの治療から退院・在宅へ移行するための療養型病院として地域で期待されているのをひしひと感じますね。
アメリカでは機能分化が進んでおり、急性期病院は手術のみをしていて、日本はそれを参考にしています。厚労省の政策で効率性を追求した結果ですが、治療を受ける患者さんにとって施設を移動するのが少ない方が、精神的疲労やご家族の負担も少ないと思います。
◆温泉の効能
ヨーロッパでは温泉療養に保険が適用されている国もありますが、日本では、まだ適用されるに至っていません。
温泉は古くから日本人に親しまれています。湯治の治療効果のエビデンスを出すのは困難ですが、病気には、精神的な要素も含まれます。心が軽くなれば、体も軽くなるでしょう。
三朝では鎌倉時代に泉源が見つかりました。かつては「湯村」と言い、多くの人々に親しまれていたそうです。当時は、薬もなく、病気を治す手だてがなかったため、大いに活用されていたようですよ。
しかし、医学会では「温泉療養」は異端児で、最近まで相手にしてもらえませんでした。しかし、主観をおろそかにはできません。決して数値で表せるものがすべてではないと思うんです。
患者さんは繰り返し温泉を使っていますから、効能を感じてもらえているかもしれませんが、医療者の立場からは、大きな声で効果がある医療だとは言えません。しかし温泉は活用次第で、無限の可能性を秘めていると確信しています。
◆整形外科の魅力
整形外科の面白さは、医師なりの工夫ができるところです。切って治す、切らずに治す、薬もさまざまで、治療の裁量権が広い。
高校時代は、建築に関心がありました。整形外科には、ある意味、大工仕事的な要素もあると思うので、物理的発想も求められます。
◆チーム医療
日頃から疾患ごとの対策を想定していて、一人の患者さんに対して、各部署が相談して、優先順位を見極めた最適な医療を提供します。
医師と患者さん、スタッフのコミュニケーションを密にして、チームとして医療安全に務めることが重要です。
ここ数年は、スタッフ間のコミュニケーションの向上に努めています。
情報共有のためには「伝える力」と「理解する柔軟性」の両方が必要です。こちらから一方的に言うのではなく、相手の立場にたって伝える力を磨いていきたい思っています。
心と体は切り離して考えられません。医療者は患者さんの心を元気にすることが求められます。あいさつをするだけでもいいんです。まずは「あいさつ」、これが医療の基本です。
◆医師を目指す若い人へ
学生時代の恩師から言われたのは、「小さいことから始めよう。Fromsmall beginning」です。
恩師は小さなことから積み重ねて、偉大な科学者になられました。自分も目の前の患者さんにできることを考え続けた結果、今があります。
若い人も、方向性を見つけ、医師の仕事にやりがいをもって取り組んでもらいたいと思います。
◆目指すべき方向性
患者さんが来た時になすべきことができなければ、病院の存在価値はないと思います。医療面では温泉病院の特殊性を生かし、心も体も癒やすことができるところが当院の特長です。
地域に貢献して、病院の役割を果たし、患者さんも職員も地域も幸せになることが理想ですね。