浜松医科大学医学部附属病院 今野 弘之 病院長
昨年、開学40周年を迎えられました。
1974年に浜松医科大学が発足し、1977年に附属病院がスタートしました。病院の規模と診療科についてはほかの大学病院と大きな違いはありません。当院の特徴はなんといっても、医科系単科大学の附属病院であるということです。
大学合併が盛んに行なわれたころにほとんど医学部に改組されたため、国内の国立単科・新設大附属病院は、当院と旭川と滋賀の3つしかありません。私たちはこの歴史と伝統を継承し、これまで同様に医科の単科大学として成長したいと考えています。
他に特徴として挙げられるのは、組織として非常にまとまりが良いことでしょうね。昨年4月に病院長に就任しましたが、方向性を共有するとみなさんが協力していただけるので助かります。
学会運営も病院経営も同じだと思うのですが、モットーとして「透明性・公平性」という2点を常に意識しています。そのうえで、単科大学の強みでもあるコンパクトでまとまりが良い組織運営を行なう。実際に手術件数や稼働率も増えていますし、収益率も向上しています。
今年、7月15日から17日の日程で開催される、第70回日本消化器外科学会総会で学会長を務められます。
静岡では初めての学会開催で、医者が数千人規模で集まります。これだけ大規模な学会は初めてですので、大学と浜松市にもご協力いただいており、静岡で開催されることを心から光栄に思います。
まず、第70回という回数自体が歴史の重みを感じさせる記念の学会になります。また、今回の学会は学会の新しい方向性が示される大会になります。
理事会では、国際化という方向性を打ち出しています。国際化というキーワードが何を意味するかというと、まずは学会発表の英語化ですね。学会発表のスライドはすべて英語で行ないますし、シンポジウムやワークショップなどの上級演題も30%が英語による討論になります。さらに、上級演題の差別化が明確でなかったという反省がありますので、本来のパネルディスカッションに戻します。
たとえば、司会者が具体的な症例などを提示したうえで、意見が分かれるところや賛否のある部分をディスカッションしていくという試みです。司会の先生にはご負担をおかけしますが、準備を進めているところです。
国際化というテーマでいえば、約40人の外科医が海外から参加されるところも象徴的です。とくに海外の若手に参加していただき、日本の消化器医療を実際に見て肌で感じていただく機会を提供します。アジアを中心に、ヨーロッパやアメリカ、さらにアフリカからも参加される予定です。
浜松はたくさんの大企業の発祥の地です。
遠州の気風をあらわす言葉で、「やらまいか」精神があります。進取の気性を示していて、みずから進んで物事に取り組むという心意気のことです。また、浜松という土地は、「歯に衣を着せない」というか、積極的にワイワイ言い合おうという風土が根付いているようです。
ヤマハやホンダ、河合楽器やスズキ、浜松ホトニクスなど、大きな企業がここから巣立っていっているのは、「やらまいか」という新しいことをやってやろうという気持ちが旺盛で議論の土壌があることと無関係ではないでしょう。
そういう風土があるので、本学では新しいことにチャレンジしたり何かを産み出すことについてすごくアクティブです。浜松の代表的企業である光学メーカー、浜松ホトニクスと共同で研究を進めていることもその一端でしょう。
浜松医科大学の研究のキーワードは「光」です。第3期・中期計画が始まりますが、そのなかで本学の強みとして光尖端医学を打ち出しています。光医学に対して多くの研究資源を注いで成果をあげており、浜松ホトニクスとの共同研究は本学の大きな柱のひとつです。
基本方針と医療安全。
附属病院は次の5つの基本方針をもとにすべての方針が決定されます。
①患者さんの意思を尊重した安心・安全な医療の提供、②社会・地域医療への貢献、③良質な医療人の育成、④高度な医療の追求、⑤健全な病院運営の確立、この5つの基本方針はしごく当たり前のことですが、私自身、この一つひとつが非常に大切であり、よりどころとして再認識しています。
高度な医療を提供するということは、反面、常にリスクを考えなければなりません。私は院長になる前に4年間、副院長として医療安全を担当しました。病院として医療安全に対する意識を文化にまで高めなければならない。医療事故は隠さずに公表して再発防止策に反映させるべきで、そうすることですべてをオープンにして透明性を図ることが可能となります。
地域医療については安心安全な医療と良質な医療人育成で社会に還元しますが、まず第一は医療安全です。国民が大学病院に期待している役割でもありますし、高度な医療と安全な医療、加えて健全経営が両輪のように動くということが一番大事だと思います。