独立行政法人 労働者健康福祉機構 山陰労災病院 大野 耕策 院長
― 労災病院の役割・特徴は。
名前に象徴的ですが、まずは勤労者の健康を守ること、良質な医療を提供することが大きな目的です。あるいは、病気の療養と仕事の両立をはかるということが労災病院の現代的な役割かもしれません。
地域の中では、救急医療を提供するという重要な役割も担っています。全国には労災病院が33カ所あるんですが、山陰地方では当院だけです。
当院は「断らない救急」を目指しています。市民の方から信頼されるために、「労災病院に行けば何とかしてくれる」という信頼を得るということが最大の目標です。
救急車はこの辺りでは一番多く、年間2700台を受け入れています。医師や職員はがんばっています。90代の患者さんでも、成功する可能性があれば心臓や脳外科の手術もしますので、本当に一生懸命やってくれていると思います。
― 南病棟に小児科と産婦人科を新設しました。
この地域では開業医と大学病院くらいしか出産を扱うところがなかったんです。それで大学病院に負担がかかってしまったため、中等度のリスクがある出産を診る必要があって鳥取大学からの依頼で開設しました。地域のニードといえますね。
― ご専門は小児科です。
小児科の中でも「神経」を専門に研究してきました。子どもの「てんかん」「脳性マヒ」といった分野で、最近では「発達障害」も対象にしています。
かつてに比べると日本人全体の想像力が乏しくなってきたのではないでしょうか。あの子たちは比較的他の子の気持ちを考えるのが苦手なので、社会の寛容度が低下してそういう子たちが目立つようになってしまったんですね。
かつての日本社会ではできていたんですが、あの子たちをきちんと社会に送り出せるように、家庭と医療、学校と医療が協力して早めに対応していくことが大事だと思います。
― 今後の労災病院。
2025年に向け、医療制度が変わっていきます。当院で診療科が充実しているのは、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病、消化器系・泌尿器系のがん、整形外科的疾患、透析などです。これからの30年間、人口は減少しますが、高齢者人口は高いままで維持されます。当院では高齢の方が多いため、これらの領域はニードが高く、今後は脳疾患と循環器、糖尿病などの疾患のニードがさらに高くなることが予測され、ニードに応えられるようにしていきます。
― 小児科医療について。
発達障害の子どもたちを「障がい」にしないことがとても大きな役割だと思います。子どもたちの6%が発達障害を持つと考えられますので、そういう子たちを社会に送り出し、世の中の役に立てるようにするのが小児科医の役目のひとつだと思っています。
これは小児科の醍醐味だと思いますが、私が若い頃に診た子が、いま40歳くらいになっているんです。その子たちががんばっているところを見たり、あるいは子どもを連れているところを見ることができるのはうれしいですね。
― 研究者としても大きな成果をあげています。
母校の鳥取大学には脳神経科があります。小児科が2つあって、一般小児科と脳神経小児科があるんですね。そこに在籍していた時に、「脳神経小児科で治せる病気なんかないじゃないか」と揶揄されたことで、逆に「なんとかして病気を治すんだ」と発奮しました。
ひとつの病気を継続して研究していると、「あの人はこの研究をしている」と認めてもらえるようになります。
私自身は、結節性硬化症の研究や、まれな疾患ですがニーマン・ピック病C型の研究などを通じて研究者仲間との出会いが得られました。
また、遺伝で起きる小児神経疾患について、3つほど治療薬の発見や薬の国内承認に尽力することができました。良い師、良い仲間に恵まれたと感謝しています。そし て、研究で大切なことは継続することであると思っています。