広島大学病院 平川勝洋病院長
■略歴 1977 広島大学医学部卒業 1981 同附属病院助手 1982 トロント市小児病院研究員 1991 広島大学医学部講師、ハノーバー医科大学で人工内耳の臨床研修 1997 広島大学医学部助教授 2005 広島大学大学院教授 2007 広島大学病院副病院長 2012 広島大学副学長
■所属学会 日本耳鼻咽喉科学会、日本鼻科学会、日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会、日本頭頸部外科学会、日本耳科学会ほか。
1945年に広島県立医学専門学校及び附属医院が設立されて今年で70年。70周年記念式典の開催も予定されている。
4月に病院長に就任した平川病院長に今後の抱負や取り組み、10月に開催する日本鼻科学会総会・学術講演会などについて話を聞いた。
―4月に病院長に就任しました。今後の抱負を聞かせてください。
歴代病院長のおかげで経営状態は良好です。今後もそれを引き継いでいかなければなりません。また2000人を超える職員の生活の質を高めることも必要だと感じています。
昨年、広島大学は文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援」(トップ型)に採択されました。世界レベルの研究を行なう実力があると認められたわけです。病院の研究が大学内で占めるウエイトは非常に大きいので、我々の責任は重大です。
今年2月、総合医療研究推進センターを設立し、充実した研究を行なう環境が整いつつありますが、この部署は生産部門ではないので利益を生み出しません。健全な経営基盤を確立しないことには、せっかくの環境を維持、発展させることは不可能です。昨年度決算の数字も見ながらバランスの良い予算配分をしていく必要があります。
ー病院長と耳鼻咽喉科学・頭頸部外科学教授、2足の草鞋ですね。
一方に偏るともう一方がおろそかになる。うまくバランスを取らねばなりませんが、しばらくは病院長業務に時間を割かれるでしょうね。
教室員には負担をかけてしまい胸が痛みますが、すべては病院をよくするためととらえ、理解してもらいたいと思います。
幸い事務職員のみなさんも優秀なので、助けを借りつつ、共に頑張っていくつもりです。
ー職員に求めることはありますか。
大学病院は研究機関であり、医療人の育成機関です。給与面では市中の大病院には及ばないかもしれませんが、ここでは様々な研究や豊富な経験が積めます。そこに誇りを持ち、業務に取り組んでもらいたいと思います。
ー前身の広島県立医学専門学校設立から今年で70年。節目の年を迎えますね。
医学部設立70周年。広仁会(広島大学医学部医学科同窓会)の発足から60周年です。
これまでの病院長のおかげで今の私がいます。これからも伝統を継承しつつ、さらなる発展を目指すのが私に課せられた使命です。
病院正門横に医学資料館があります。国立大学医学部で最初にできた資料館です。重要文化財に指定されている世界初の木製人骨模型や解体新書の初版本、華岡青洲の著書をはじめ、各診療科の歴史的資料を陳列しています。
歴史を学ぶことも学生にとって重要なことなので足を運んでもらいたいですね。
ー10月の日本鼻科学会総会・学術講演会で学会長を務めるそうですね。
アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎など鼻に関する疾患全てを網羅する学会です。
これまで様々な新しい治療法、診断法、疾患の概念が出てきました。それらを体系的に整理できる学会にしたいですね。
シンポジウムやパネルディスカッション、特別講演の他、海外から講師を招きますし、韓国の鼻科学会との特別セッションも企画しています。
ベテラン医師が手術手技をレクチャーするセッションも企画しています。鼻の手術は一歩間違うと、頭蓋骨を傷つけたりして医療事故につながるリスクがあります。それを予防するためにも安全・確実な手技の伝承が不可欠です。映像だけではわからない感覚を伝えられるのではないでしょうか。
ー医療を志す若者へメッセージを。
医療関連学部は全てこの霞キャンパス内にあり、医師、歯科医師、薬剤師、看護師など、ほぼ全ての医療職を育成する環境が整っています。幅広い職種との交流プログラムを組んでいますし、実習環境も整備されています。医療従事者を目指すには、とても恵まれた環境です。
若い医師にはリサーチマインドを持ってほしい。その土台をつくるのが大学病院の役割です。多くの患者さんを治療して、社会復帰に導くのも重要ですが、手技を磨くにしても、診断技術を磨くにしてもバックグラウンドは学問だということを忘れないでもらいたい。
近年、待遇面が病院選びの基準になっていますが、医学部に入学したときの純粋な志を思い出し、医師として成長できる環境かどうかを基準に職場を選んでほしいと思っています。
ー医師として心がけていることは何でしょう。
昔、先輩に「人は見かけが重要だ」と教わったことがあります。医師は常に冷静な姿を装うことが重要だと言われ実践してきました。もちろん中身が大切なのは言うまでもありませんが、常に他人から見られていることを意識しなければなりません。
救急の現場で医師が取り乱すと周囲もパニックになります。落ち着いて判断し、適切な指示を出す、内心は慌てていても冷静に振る舞うことが重要です。
外来で患者さんと話すときも同じです。同じ内容でも言い方ひとつで受ける印象は違います。ささいなボタンのかけ違いが大きなトラブルにつながることもあるので、相手の立場に立ち、真摯に向き合うことを心がけています。
患者さんの顔を見て話すのは基本ですが、多忙な現場では、おろそかになりがちです。患者さんからの苦情も職員の態度に関する内容がほとんどです。こうした苦情は私への職員の労働環境を整備せよとのお叱りだと受け取っています。