テーマは「龍になれ雲自ら従う ー それぞれに龍をめざして」
第32回日本呼吸器外科学会総会が5月14日、15日、香川県高松市のサンポートホール高松などで開催され約1900人が参加した。
学会長は横見瀬裕保・香川大学医学部呼吸器・乳腺内分泌外科教授。
大会2日目の日本呼吸器外科学会受賞講演、会長講演、ランチョンセミナーなどを取材した。
◆会長講演
午後からの会長講演で横見瀬学会長は「患者さんの夢をかなえるには医者が夢を持たなければならない」をテーマに講演。
講演では、京都大学の寺松孝名誉教授の「夢を持ちなさい。私の夢はサイボーグになって火星に住むこと」という言葉で入局を決めたというエピソードを紹介した。
寺松教授からは他にも「臓器ある限り外科は存続する」「有効な抗がん剤が必ず開発される。そのとき、胸部外科医は素晴らしい手術ができる」など数々の言葉をかけてもらったという。
新しい抗がん剤の出現によって寺松教授の予言が現実味を帯びてきていることにも触れ、「今まで適応がなかった進行肺がんに対する根治手術の可能性が出てきており、呼吸器外科手術はさらに大きく変身しようとしている。外科医が腕を大いにふるえる時代が到来します」と語った。
香川大学医学部附属病院では、抗がん剤感受性関連バイオマーカーを応用したオーダーメイド治療を開始している。バイオマーカーに基づく化学療法により
「従来なら手術が困難だった進行肺がんに対して、完全切除・長期予後が可能になった」と述べ、恩師の寺松教授の口癖である、「夢を持て」を合言葉に医局のスタッフと共に夢を追い続けていますと語った。
講演の最後には、座長を務める姫路医療センター呼吸器センターの宮本好博部長との思い出を語った。宮本先生の口癖は「どうしてこれが切れないの?」だと紹介。大胆で創造的な手術を教えてもらったと話した。
◆ランチョンセミナー
ランチョンセミナーのテーマは「組織接着用シートの臨床的意義とその基礎的研究」。広島大学呼吸器外科の宮田義浩准教授は、組織接着用シートがフィブリン形成による止血、肺漏閉鎖だけでなく、コラーゲン支持体部分が足場として機能することで、その後の組織再生過程においても重要な役割を果たしていることを指摘し、再生医療分野への応用が期待されると述べた。
岡山大学病院臓器移植センターの大藤剛宏教授は、分割区域肺移植における組織接着用シートの有用性について語った。大藤教授は、区域間切離にステープラーを使用できないようなデリケートな手術の際には、組織接着シートの使用は切離面の空気漏れ、止血対策に有効であることに着目。癒着防止目的での使用は肺動脈吻合部・気管支吻合部癒着軽減について、将来再手術が必要になった場合のリスク軽減が図られると述べた。
◆日本呼吸器外科学会賞受賞講演
学会賞を受賞したのは東京大学医学部呼吸器外科講師の佐藤雅昭氏。講演のテーマは「外科医の発想で迫る肺移植後慢性拒絶:拘束型慢性移植肺障害(RAS)の発見と肺内リンパ組織新生」。
横見瀬学会長が座長を務めた。
肺移植後の5年生存率が低い最大の要因は慢性拒絶と、その臨床診断のBОシンドロームだと従来はされてきた。佐藤氏は2010年の肺移植学会で、BОとは異なる表現型を示すrestrictive allograft syndrome(RAS) について発表。RASの存在は世界中で検証され、慢性拒絶の重要な位置を占めるようになった。
佐藤氏は、今後も動物実験をベースにした基礎的研究と臨床研究の両面から肺移植慢性拒絶の核心に迫っていきたいと述べた。