医療法人弥生会 弥永協立病院 弥永 浩 院長
かつて久留米井筒屋があった福岡県久留米市六ツ門にある弥永協立病院。町のかかりつけ医、救急告知病院の顔を持ち、需要が高まるがんの化学療法や緩和ケア、高齢者医療まで幅広く取り組んでいる。再開発が進む六ツ門に弥永浩院長を訪ね、話を聞いた。
私の父親が「弥永外科」を開業してから50年余になります。当時は井筒屋と当院ぐらいしか大きな建物がありませんでしたが、今は、マンションなどが増えましたね。
私の父は久留米大学の外科出身で、開院当初は消化器外科の手術をメインにやっていました。私自身は乳腺外科が専門で、久留米大学の外科で20年近く勤めてきました。
当院の役割は、町の中の外科として小さなけがから、がん治療まで迅速にカバーすること。24時間365日、救急も受け入れています。
中でも「がん治療」と「高齢者医療」に力を入れています。がんについては、手術から抗がん剤治療まで一貫してできる病院です。大きな病院と検査や治療の内容は同じですが、期間をぎゅっと短縮できるのが小さな病院のメリットでしょう。
外科のクリニックの先生などに手術室と麻酔科医と看護師を無償で貸す「手術室開放」もしていて、大学病院から患者さんと医師が来て手術をすることもあります。
高齢者医療は、各個人に合った医療を心がけています。介護施設と契約し、肺炎になった方を一定期間入院させて治療してからお返ししたり、胃ろう造設をしたりもしています。また、患者さんが帰る場所を確保するという努力も必要です。
当院は1階と2階が高齢者フロア、3・4階ががんを含め手術をした方が中心のフロアです。かつては、がん治療の方が多く入院されていましたが、今は半々です。
―まさに高齢化社会を実感されている。
当院の患者さんには80歳、90歳を超えた方がたくさんいらっしゃいます。本来は、自宅にいて、時々往診を受け、食べられなくなったら自然に衰弱していく、というのがいいのでしょう。
でも、施設や病院では、そうはいきません。本人が「何もせんでいい」と思っていても、家族はそうは言えない。施設側も餓死させるわけにはいかない。だから胃ろうで栄養を入れる、点滴をする、となります。
今は核家族がほとんどです。高齢の方が、立てない、食べられないとなったら、家で介護することはできず病院へ、そして在宅のような施設へと移らざるを得ない。でも、本人にとっての「在宅」はあくまでも自宅です。高齢化社会で最期をどこでどう迎えるかという問題は、ますます難しくなっているのではないでしょうか。
そんな中で私たちにできることは、病状などをきちんと説明し、本人の思いを尊重する方法を提案していくことだと思っています。
―今後やりたいことは。
入院患者のペット預かりとアニマルセラピーを進めていきたいと思っています。
ペットを飼っている方の多くが入院をためらいます。うちは父のころには診察室にネコがいて、父と一緒にレントゲンを見たりしていたんです。だから私も患者さんの気持ちが分かる。今も、エサやりのための外出などはわりと自由ですが、入院時にペットも連れてきていただけたら安心かなと思うんです。
ペットの元気がなくなると患者さんの病状が悪化することもあります。アニマルセラピーもそうですが、動物が患者さんの精神的な部分を助けてくれると思っています。
―院長としての思いを。
病院は、私1人では何もできません。経営や患者さんの対応など、私にしかできないこともありますが、私が気付かないこともたくさんありますし、適当にやっているわけではないけれど間違えることもあります。
当院は各担当者が私の指示通りにやるというよりも、自分なりに考え、チェックをして、意見もしてくれます。助けられながらやっていると感じますね。
がんを理由に当院で亡くなる患者さんは年間80人前後。家族が亡くなった病院からは足が遠のくものですが、うちには家族が通院してくれたり、検査に来てくれたりします。それも職員の皆さんのおかげです。
小さくても、小さいからこそ、大きな病院ではできないような中身の濃い病院でありたい。ハートフルなつながりと最新の医療機器、技術で、地域に貢献していきたいと思っていますし、それが生き残る道だと考えています。