会長 三好 新一郎 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 呼吸器・乳腺内分泌外科学 教授が語る 温故創新 innovation & improvement
第58回関西胸部外科学会学術集会が6月12日( 金)・13日(土)、岡山市の岡山コンベンションセンターで開かれる。テーマは「温故創新」。同学術集会にかける思いを、三好新一郎会長(岡山大学大学院医歯薬学研究科呼吸器・乳腺内分泌外科教授)に聞いた。
若い人に伝えたい
胸部外科学会というのは、心臓外科、食道外科、呼吸器外科が一緒に集まる総合学会です。関西と名がつく地方会ですが、東海や北陸、中四国からも集まって2日がかりで開かれる、わりと大きな会になります。
第58回の特徴の一つは、開催を金・土曜としたこと。これまでは木・金曜でしたが、医学生や研修医はウイークデイには出てくることがなかなかできません。若い人にも参加してもらいたいと、週末に開くことにしました。
もう一つの特徴は、今回海外から招待する3人が、私が留学時代に親しくなった先生方だということ。若い医師に、「留学してくださいよ。そうすれば20年、30年先にこんなふうに立派になる先生たちと仲良くなれますよ」ということを伝えたいんです。
テーマは、「温故創新Innovation(革新)&Improvement(進歩)」としました。
私が留学したトロント大学のクーパー先生は、1983年に世界初の肺移植を成功させた方でした。その先生が、肺移植を成功させるために最初にしたことが、「温故」。つまり、過去の人たちの実験や研究を調べ、それまでにうまくいかなかった38人の患者さんの経緯を調べることだったそうです。そして自分だったらどうするかを考えた。それが「創新」です。古いことから学び、新しいことを成功させようという姿勢は、私も真似したいと思いましたし、若い人たちにも伝えたいと思います。
医学は、「Innovation&Improvement」の中で発展してきました。個人で見ても、初めて手術をしたということはその人にとってのInnovation。手術が上手になっていくのはImprovemen なんです。
自分自身の医者としての35年を振り返っても、Innovation&Improvement だったと思います。
1983年にクーパー先生が肺移植を成功させ、私が留学したのは87年。まだ肺移植の黎明期で、世界でInnovation が起こりつつある時期でした。世の中すごいな、と思ったわけです。
日本に戻ってきてからは、カナダやアメリカの状況を見ながら、そして学びながら、海外より良い成績を得ようと努力しました。それが2000年の国内2例目の生体肺移と国内初の脳死片肺移植、翌年の国内初脳死両側片肺移植の執刀につながったと思います。
これらは国内にとってはInnovation、世界にとってはImprovement だったでしょう。多少は肺移植のInnovation&Improvement に貢献できたかなと思っています。
今回の学術集会の狙いは、自分が体験してきたことを若い医師に伝えるということ。「皆さんもがんばってくださいね。いい友達もできますよ」というのがメッセージです。そして、関西地域の胸部外科の発展に貢献できたらというのが、私の希望であり、抱負です。
チャレンジなくして革新&発展なし
国内初の脳死片肺移植をする時には、やはりプレッシャーを感じました。でも、ベストを尽くすしかないんです。それまでの積み重ねとシミュレーションの結集。誰かがチャレンジしないと、Innovation もImprovement もないんです。
昔の方たちは、例えば肺がんの手術でそういうプレッシャーを感じていたのではないかと思いますね。そして、その方たちのおかげで、今の私たちがあるわけです。
自分が手術をして、納得できる手術ができると、まずうれしい。そして患者さんが退院するときに感謝されてまたうれしい。それが外科医の醍醐味で、私自身の外科医の人生を振り返っても、とても満足しています。
夢を持ち、努力を続けて
若い人には留学を勧めます。また、夢を持ってそれを実現するべく努力をしてほしい。それを一生続けることがプロフェッショナルへの道になると思うんです。
論文を書いてくださいと言いたいですね。英語で発信すると読む人の数が違います。みんなから正しく評価してもらえ、世界も広がります。
それから、低侵襲手術と拡大手術、両方に目を向けて勉強してほしいと願っています。
私たちの世代は開胸する拡大手術の道を突き進んできました。その後、低侵襲の胸腔鏡手術が始まり、若い人の目はそちらに向きがちです。でも、病気のレベルによっては拡大手術が必要な場合もあります。拡大手術を継承しながら胸腔鏡手術の術式も発展させる。そんな考え方が必要で、それが患者さんにとってもプラスになると思います。