米沢慧「いのちを考える」セミナーより 地域で支える〈いのち〉のケア
長寿社会となり、「地域でいのちを支える」というテーマが切実となったが、その主役は「私たち(市民)」であるべきだと米沢氏はセミナーを始めた。
行政の「地域包括ケア」は少子高齢化に関するあらゆる医療・福祉事業の枕詞になってはいるが、これは国家の存続をかけた政策である。セミナーでは、市民の地元意識の強い主体的な運動として、「地域でいのちを支える」ことを考えた。
長野県上田市「生と死を考える会」―シンポジウムより
長野県には厚生連佐久総合病院の元院長、故若月俊一先生が実践した農村医療が根付いている。「農民の中に入れ」という若月イズムを継承する人々が地域医療や福祉の分野で活躍している。長野県上田市の「生と死を考える会」シンポジウムで同地域の〈いのち〉を支える活動が報告された。
〈超高齢社会に向けて―井益雄氏〉
上田市の新田自治会は人口4000人、高齢化率26.6%、65歳以上の独居者は561人の地域である。上田市で開業する井医師は、4年前に保険制度にのみ頼るのではなく、住民が皆で支え合う地域づくりを実践するNPO法人「新田の風」を立ち上げ、理事長を務める(厚生労働省のチーム医療実証事業)。
「安心して老いを迎えられる町づくりチーム」は、元気なうちは社会参加をし、やがて自分がお世話になる時のため、家族介護者なしでも自宅と施設で住民を支えるチームである。小規模多機能「新田の家」も介護の社会化を支える場である。
老いを地域全体で伴走し、支えるには、介護予防とともに「いのち」について住民自ら考えることも必要である。「いのちの選択」は新田の風のメンバー、すなわち住民が練り上げた事前ケア計画書(事前指示書)である。お薬手帳に添付できるサイズであり、「健康状態などにより考え方が変わった場合は新しいものを添付しましょう」の一文もある。いかに新田の人々が真剣に〈いのち〉の選択について考えたかがうかがえる。
〈人生の続きに寄り添う介護―櫻井記子氏〉
老年看護に長年携わってきた櫻井氏は、現在JA長野会、特別養護老人ホーム=ローマンうえだの副施設長である。家庭での介護の限界を知り、その答えを地域の中に見出すべく、施設の中だけでなく地域とともに高齢者介護を実践している。
例えば、高齢者が入居してからの人とのつながりを大事にし、「人生の最終段階をみんなで共に歩む」取組をしている。高齢者の外出や外泊も積極的に行ない、「その人の生き方によりそう」ことを重視している。「死は尊く、豊かである」ことを認知症高齢者から教わるという櫻井氏の言葉より、看取り率が9割というローマンうえだの活動の真価がうかがえる。また、認知症は誰もが当事者であり、今後認知症の人の介護者になる住民への事前教育を行ない、「安心の地域」をつくる種まき人になろうと語る。
にのさかクリニックのセミナーには福岡県や佐賀県から、高齢者や認知症のケア、ホスピス運動、国際支援等に関する市民活動をしている人も多数参加している。彼らの活動は生活圏を超えたものだが、セミナーで紹介された〈いのち〉を支える町づくりに皆、共感していた。地元住民の運動が既存の市民活動と有機的に連携することも各々の活動の活性化につながるかもしれない。反対に市民活動家が種まき人となり、各々の地域で独自に町づくり活動を行なっている例もある。
セミナーに参加された70代の方が、「自覚的に死にたい」、「いろんなことにつながって生きたい」と語った。「地域でいのちを支えたい」市民の心情を象徴しているように思えた。