自分を信じ、目の前のことに全力で取り組んで

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鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 呼吸器外科学分野 佐藤 雅美 教授

1982 東北大学医学部医学科卒業 同抗酸菌病研究所 1991 公立学校共済組合東北中央病院 2000 東北大学医学部附属病院呼吸器外科病棟医長 2001 同加齢医学研究所助教授(呼吸器再建研究分野) 2002 文部科学省在外研究員(ハーバードメディカルスクール客員助教授) 2005 宮城県立がんセンター医療部長 2010 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科呼吸器外科学分野教授

 鹿児島大学の呼吸器外科講座は、2010年9月に旧第1外科と旧第2外科の呼吸器グループが統合され発足。肺がんを中心に呼吸器関連の手術をほぼすべて行なっている。

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―鹿児島県内の肺がん治療の現状を教えてください。

 2015年に国立がん研究センターが発表した推定データでは、2015年の肺がん死亡数は7万7200人。2位の大腸がんの5万600人を大きく引き離しています。

 昨年の鹿児島県での肺がんの死亡者数は1042人。それを外科ではわずか20人の医師で診ています。ちなみに消化器のがんの死亡者数は、各疾患600人前後ですが、それを約300人の医師で診ているんですよ。いかに呼吸器外科の医師が少ないか分かるでしょう。

 需要に応えるためには最低でも今の倍の人数が必要なので、できるだけ多くの医師を育成しなければなりません。

 鹿児島県では肺がんの死亡率が全国平均を上回っている地区があります。他のがんは全国平均より下回っているのに、なぜでしょう。他県より高齢化が進行していること、呼吸器が専門の医師が不足していること、喫煙者が多いことがあります。

 肺がんは早期に発見できれば、手術が可能で、医療費も安く済みます。しかし進行すると手術ができず、抗がん剤や分子標的薬、免疫療法が必要となります。これには多額の医療費がかかってしまう。そうならないためにも県民の皆さんには、こまめに検診を受けてもらいたいですね。

―鹿児島大学呼吸器外科について。

 近年、大都市の病院では、胸腔鏡の手術が増えています。これは低侵襲を売りにして、数多くの患者さんを確保したいからです。当大学でも、胸腔鏡手術をたくさんやっています。しかし状態によっては、開胸手術が必要なケースがあります。胸腔鏡手術は高度な技術が求められ、経験の少ない若い医師には、任せられません。開胸手術は基本的な解剖や手技を学べます。鹿児島大学病院では開胸手術に数多く取り組むことで、若手でも豊富な経験を積むことが可能です。

 外科のなかでも呼吸器外科は、医師のQOLが高い科です。それはなぜか、緊急の夜間手術が少ないからです。

 当大学の年間の夜間救急の手術件数は、眼科、産婦人科、耳鼻科、小児外科、消化器外科、心臓血管外科、それぞれで約40件。しかし、呼吸器外科は年間4件です。ほとんどが予定手術で対応できるので、子育て中の女性医師なども働きやすい環境だと言えます。

―呼吸器外科医に必要な資質は。

 1986(昭和61)年、ミスター赤ヘル、広島東洋カープの山本浩二選手が現役を引退しました。その記者会見で、「これ以上野球がうまくなると思えないのでやめる」と語りました。その言葉を聞き、「これほどの名選手でも、向上心を持ち続けているんだ」と衝撃を受けたことを覚えています。これは医師にも当てはまります。50歳になっても60歳になっても向上心を忘れないことが大切です。

 私は手術前日の夜、2、3時間かけて、頭の中で手術のシミュレーションをします。手術は前日からすでに始まっているんです。頭の中で成功した手術は、実際も成功します。シミュレーションができた時点で、手術の8割は終わっているのです。

 物事を突き詰めて考えていくと、ある日、突然真理が見えてくるものです。しかし、それは悟りを開いたなどという、宗教的なものでは、ありません。事実を積み重ねていくと当然の結果として、見えてくるものなのです。一つ一つ、基礎を積み上げた先に成功はあります。私はそれを、努力だとは思っていません。思考することが楽しい、ただそれだけです。

 低い足場からは見えないが、足場を積み上げると自然に多くのものが見えてくるものです。、「継続は才能を凌駕(りょうが)する」という言葉があります。若い医師には、目の前の患者さんのことを常に考えて、経験を積み上げていってもらいたいですね。

 私の趣味は釣りですが、手術の前日には絶対に行きません。筋肉痛になって、手術中ほんのわずかでも腕が思うように動かせなくなるリスクを避けるためです。

 棋士の羽生善治名人は棋聖のタイトルを取ったとき、記者に「将棋の道とは何か」と質問され、「削ることだ」と答えたそうです。削ることとは、自分の本業である将棋以外の日常行為を極限まで削り落として、感覚を研ぎ澄ませることなのだそうです。

 私も人生のさまざまなことを削っています。しかし、まったく苦痛ではありません。自分のプラン通りの手術ができる、今まで誰もやったことがない手術をする、その喜びは、口では言い表せないものです。

―教室員に心がけてほしいことはありますか。

 いつも「鹿児島のなかだけにいるな。他流試合をしなさい」と言っています。他流試合とは、外の病院で経験を積むことです。しかし、十分に力を付けてからでないと外に出るべきではないのもまた事実です。

 西郷隆盛や大久保利通も、藩内でしっかりと力を付けていたからこそ、明治維新で活躍できたのです。教室員には鹿児島で力をつけた後、外の病院で経験を積み、戻ってきてもらい、その経験を教室に還元してくれたらと思っています。

 以前、生死の境をさまよった経験があります。同様の経験をした先輩にこれからの生き方についてアドバイスを求めると、「何も考えるな。目の前のことをしっかりやれ」と言われ、目からうろこが落ちました。

 それまでの私は「何かがない、何かが足りない」と絶えず思っていましたが、目の前のことを一生懸命やっていれば、神様はチャンスをくれるものだと気付かされました。ここで言う神様とは、社会であり、隣人、先輩、患者さんです。

 医学部に入ってくる人は、みなさん優秀です。能力がある、努力ができる、我慢ができる。可能性は無限です。楽をして何かを得ようとしてはいけません。羽生名人のように、削るものを削っていけば、自ずと道は開けてきます。未来に不安を感じる必要はありません。自分を信じて目の前のことに全力で取り組んでください。その先に、思い描く未来があるはずです。

 最後に、いつもありがとうを忘れないようにしましょう。


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