医療法人社団 如水会 嶋田病院・嘉島クリニック 嶋田 英剛 会長
患者の状態に合わせて透析液の組成を変更する「処方透析」や、仕事の後でも通いやすい夜間透析で知られる熊本市の医療法人社団如水会。開設者の嶋田英剛会長に、思いを聞いた。
当院は1974(昭和49)年、熊本県八代市で嶋田内科医院として開院。1976年、熊本市の現在市に新築移転し、2003年、現在の病院となりました。1989年には、関連施設の嘉島クリニックを開設しています。
診療理念は「常に医療技術の研究改善を怠らず、職員の資質向上を図り、良質の医療を提供することで病める人たちの信頼に応える」。透析治療の黎明期から、患者さんそれぞれに合った透析液の組成改善と、医療機器の改良に努力してきました。もちろん、それに見合う人材の開発と育成も重要だと考えています。
医師は嶋田病院と嘉島クリニックで計8人、臨床工学技士は17人、看護師は55人。近年の糖尿病増加を受けて、糖尿病専門医も常勤しています。主な診療分野は血液透析で、ブラッドアクセス関連手術は年間180例ほど。胃カメラなど各種検査にも対応しています。
ベッド数は嶋田病院が88床、鹿島クリニックが77床の計165床。患者数は病院とクリニック合わせて356人、うち68人は夜間透析を受けています。
―透析液の組成改善、機器の開発を具体的に。
1970年代、市販透析液のナトリウム濃度は132mEq/L、実測浸透圧は260mOsm/L弱でした。一方で患者さんの血しょう浸透圧は300mOsm/Lを超えていましたので、この浸透圧落差が不均衡症候群の主原因になっていると考えたのが、処方改善のきっかけです。
まず、当院では基本ナトリウム濃度を140mEq/Lとしました。現在の市販液のナトリウム濃度がこの140mEq/Lですから、それより11年も先んじていました。この改善によって、不均衡症候群はずいぶん減りました。
その後、さらにナトリウム濃度を上げていきました。現在は基本透析液のナトリウム濃度を145mEq/L、カリウム濃度は3.0mEq/L、実測浸透圧約290mOsm/Lにしています。
透析液のナトリウム濃度を高めると、体内にナトリウム蓄積が起こり、体液量も増加して血圧上昇をきたすと言われてきました。しかし、当院ではナトリウム濃度を132mEq/Lから145mEq/Lへとだんだんと高めてきましたが、その間、患者さんの活動は活発となり、血圧も下がって正常化し、貧血の改善も見られています。
また転入患者を対象に、市販液で透析していた転入前と当院での治療成績を比較した結果でも、いい結果が得られています。
さらに、1992年から2011年の20年間の平均で見ると25年以上の長期透析患者の割合が全国平均は4・1%で当院は12.1%、粗死亡率は全国が9.5%で当院は5.1%という結果になっています。
機器の開発で言うと、1983年、濃厚原液の希釈ミス、血液回路内へのエアー誤注入を解消するために新型血液ポンプを開発しました。回路内のエアーを感知するとポンプが自動的に停止する仕組みです。その他、透析液中イオン濃度を一定範囲で変更できる処方透析装置なども手掛けてきました。
―今後については。
患者さんは、今後もさらに高齢化、重症化していくと考えられます。その中で、いかに患者さんを良い状態に保つかが、大きな目標で、透析液組成の改善を続けていくことが重要です。
また透析歴が長くなると、透析アミロイド症のような合併症や、別の問題も起こりえますので、それらの対策も課題です。体の異常を早期発見し、なるべく透析外の介入を必要としない段階で治療していくことが求められてくると思います。
最近ではリハビリテーションにも力を入れています。理学療法士2人が常勤し、透析前後にリハビリ室で赤外線照射や運動療法をしていますし、透析中にもペダル漕ぎや可動域訓練などの運動も指導しています。透析中でも時間をむだにせず、ADL(日常生活動作)が少しでも維持、改善できるよう努めていくことが重要だと考えています。