この国の未来のために、次世代への橋渡しを

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長崎大学大学院医歯薬学総合研究科/医療科学専攻展開医療科学講座/小児科学 森内 浩幸 教授

■1984 年長崎大学医学部卒。1990 ~ 99 年米国国立衛生研究所へ留学しウイルス学の研究に従事、1996 年には米国微生物学会若手研究者賞を受賞。留学中にECFMG に合格し、感染症の臨床トレーニングも受ける。1999 年より現職。
■母子感染などの感染症の研究と診療が専門。科学技術振興機構の研究領域主管、厚労省HTLV-1 対策連絡協議会委員、WHO のICD-11 Pediatric Advisory Board メンバーなど国内外の役職を兼務する他、先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症患者会「トーチの会」の顧問を務めるなどの社会活動も行なう。

 長崎大学医学部小児科学教室は、1916年(大正5年)に開講。来年で100周年を迎える。次の100年に向けて、これからの小児科学教室が目指す未来について話を聞いた。

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 社会が繁栄し続けるには新しい命が誕生し、健康に育ち、やがて大人になり親となる、このサイクルが連綿と続いていくことが不可欠です。子どもたちのすこやかな成長こそが、国の明るい未来を映す鏡なんです。

 世界の5歳未満児の死亡原因の約7割は感染症です。しかも死亡した子どもの4分の1はワクチンさえ接種できていれば救えていました。とりわけ発展途上国ではそうした悲劇が繰り返されています。私たちは日本にあってもそのことを忘れないで行動しなければなりません。

 紛争地域などの子どもたちは感染症、栄養不足だけでなく、心の傷も負っています。精神科医など様々な医療従事者と協力し、そういう子たちを救わねばなりません。

 児童精神科分野は小児科を土台にしたものと精神科を土台にしたものとに分かれています。これからは垣根を取り払い両者が協力していかなければなりません。

 子どもは心の問題が体の症状としてでることが多々あります。身体を理解していなければ、心の問題には到達できないので、幅広い知識が求められます。そこが小児科の難しさであり、やりがいでもあります。

 小児の発達障害、自閉症、多動性障害などの問題に対し、昔は今ほど社会的に認知されていませんでした。これからはそれらにしっかりと向き合っていかねばなりません。適切な対応をしていれば、大きな問題にならなかったのに、周囲の無理解により大きなトラブルが発生することがあります。

 長崎市でも2003年にアスペルガー症候群の12歳の少年が4歳の男児を殺害するという痛ましい事件が起きました。当時マスメディアは加害者がアスペルガー症候群だったことを取り上げて報道し、病気が直接の原因であったかのような誤解を世間に与えましたが、真実は違います。少年を周囲が理解できなかったことで精神的な鬱屈を抱えてしまい、事件を引き起こしてしまったのです。

 これからの小児科医は総合診療医としての役割がこれまで以上に求められ、そのなかでも心の問題のケアができる医師が求められます。社会のニーズは変化してきています。それにこたえられる医師の育成こそが、今後の小児科学教室が果たす役割ではないでしょうか。

 身体的、精神的、社会的に成熟途上にあるのが子どもです。日本社会が成熟してくるにつれ、本当の意味での大人になる年齢は上がってきています。しかしこれは、決して悪いことではありません。高等生物であるほど、成熟には時間がかかる。でも時間がかかるほど大きく育ち、高い次元に発達するのです。14、5歳で元服して、戦に出るのが決して大人の証ではないし、江戸時代の寺子屋に比べ、今の子たちは、はるかに多くのことを学ばなければなりません。成長を続けている間、子どもは弱い存在です。我々は彼らの代弁者であり、保護者の役割をも担わなければなりません。

 今週からオランダの大学から留学生が来ていて我々との会話は英語で行なっています。お互いに母国語ではないのですが、必ずしも語学が堪能な人がコミュニケーション上手というわけではありません。文法も滅茶苦茶で、ボキャブラリーが不足していても意思疎通ができる人がいます。彼らに共通しているのは相手に自分の気持ちを伝えたい、そして相手のことを知りたいという強い思いを持っていることです。

 子どもさんやそのご家族と接するときも同じです。病気の診断をつけるのはジグソーパズルを解くのと似ていて、何も分からない状態から話を聞き、診察していく過程で、ピースが埋まっていく。ピースを埋める力はいかにその子に深く、真摯に向き合っていけるかで決まります。暇を見つけては病棟に行き、子どもの顔を見て話す。そんな人が小児科医に向いていますね。

 こちらの誠意が伝われば、おのずと相手も心を開いてくれるものです。しかし、そういう能力がどれだけあるかは国家試験では分かりません。他の科でも必要な能力でしょうが、小児科には特に重要な資質ではないでしょうか。

 昔に比べて小児科医がこなす役割は多岐に渡り一人一人の労力は増してきています。新臨床研修制度になり、いろいろな課をローテートした研修医の多くが「小児科は大変だ」との感想を抱くようです。

 小児科は忙しく、自由な時間が少ない。たしかにきつい科かもしれません。しかし損得勘定だけで進路を決めるのは早計です。結婚相手を選ぶのも仕事を選ぶのも同じだと思うんです。どちらも良いことばかりが続く訳ではありません。それならば、自分が好きかどうか、それで決めるべきでしょう。好きなことなら、つらいことがあっても乗り越えられる。損得で選んだら、「こんなはずじゃなかった」とつまづいてしまいます。

 小児科医は他科の医師と比べて特別に収入がいいわけではないかもしれません。しかし人生において幸福を実感できるのは、やりがいのある仕事に就けるかどうかだと思うんです。アメリカの調査では、年収と幸福の度合いは途中まで相関関係にあるが、ある一定の収入以上になると横ばい、あるいは下がっていくそうです。

 子どもに係わる仕事にやりがいを持った医師が増えて、国民が、子どもを安心して育てられる社会だと実感できるようになれば、おのずと我が国の少子化にも歯止めがかかるのではないでしょうか。


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