曽根 三郎 徳島市病院事業管理者
昨年から徳島市病院事業管理者を務める曽根三郎氏は、徳島大学の医学部長、研究部長として蔵本キャンパスの改革を推し進め、教育・研究のために先進的な環境を作った。また日本医学会利益相反委員会委員長として、医薬品の臨床開発に関する不正防止と健全な産学連携のシステム作りに、長年取り組んできた。現在は徳島市民病院で、精力的に改革を推し進めている。病院にとっての、大きな転機になるだろう。
― 徳島市民病院の特長は。
診療科間の壁を越えたチーム医療の良さです。開院後87年の歴史を持ち、徳島DMAT指定病院としての災害医療、急性期医療および地域医療を担い、市民病院としての役割は当然重視しています。その土台の上に、出産件数と整形外科の手術数が多い、という特色を生かし、少子高齢化対策としても地域周産期母子医療センターと脊椎・人工関節センターの2つの柱を、より一層強化していきたいですね。一方、当院はがん手術数も非常に多いことから、がん患者の早期社会復帰を目指した、切れ目のないトータルケアを提供したいと考えています。
― 事業管理者としての仕事は。
以前は市立の精神病院があったのですが、現在病院局が管轄する医療機関は、市民病院だけなので、オフィスは病院内にありやりやすいですね。しかし、事業管理者として、事業立案や予算面での市議会対策、医師確保、大学病院との連携が主です。現場のトップである病院長をサポートするため、現場には口出ししないようにしています。まだ診療したい気持ちはありますが、今は病院の経営を安定化させ、職員にとって働きがいのある職場環境を作るのが大きな課題です。
当院はこれまで、先進的な診療実績を市民へ積極的にアピールしていませんでした。乳がんを専門とする腕の良い外科医から、「自分が診断した患者さんから良い外科医を紹介してほしいと言われてショックだった」という話を聞き、これではいけないと思い、昨年8月から広報誌「病院だより」を発行し、今やっと4号です。12月からは、地元新聞社のベテランOBをむかえて広報管理室を作り強化しました。病院の方針や状況が分かるように、職員向けニュースも発行しています。
今年は院内の各委員会組織の見直しです。委員数が多く、役割分担も不明確で無駄が非常に多かった。そこで、委員会の重要度から委員数を調整し、議題の重複を避けたりしています。昨年の「委員の人数× 会議の時間」の合計は1万5千時間でしたが、今年はこれを半分にしようと計画しています。浮いた時間を患者さんのために是非使ってほしいですね。
任期とは関係なく、どんな仕事も「天命を待って人事を尽くす」という気持ちでやっています。特に65歳を過ぎてから、社会貢献を心掛け、1年1年を充実して生きるよう心掛けています。がん患者さんを多く診てきて、そう感じるようになりましたね。
― 4月にがんセンターも設置しました。
徳島市民病院は以前から、外科系病院との評判が高かった。手術数の半分はがんで、平成22年には地域がん診療連携拠点病院に指定されました。
がんは外科医だけで治療する時代ではありません。これからもがんに強い病院であり続けるためには、国のがん対策推進基本計画に沿って放射線治療、薬物療法、緩和療法を充実させることが必要です。この4月開設のがんセンターは、三宅秀則副院長を中心に職員が一丸となって取り組んで来た成果です。
今回腫瘍外来を新設し、対象とするがんも25種類に拡げています。キャンサーボード機能をこれまで以上に充実し、個々の患者さんに最適な治療が提供できます。
がんセンターを作ったことによるメリットは、複数診療科、多職種の専門スタッフによるチーム医療が可能になることです。さらに徳島市民病院が「がんのトータルケアに強い病院」だと表明することにも繋がります。患者さんだけでなく、私は医療従事者へのアピール効果も重要視しており、若手医師、薬剤師、看護師、臨床心理士らが強い興味を示してくれると思います。さらに彼らががん専門スタッフへと育っていく研修の場になっていってほしいですね。
昨年から県歯科医師会と連携して、がん患者への口腔ケアを導入していますが、がん患者のトータルケアの一つとして充実させていきたいと思います。
徳島県には緩和ケア病床は全部で40床しかなく、非常に少ないので、今回、当院でも5床からスタートし、来年には20床の緩和ケア病棟を作る計画です。
どこの自治体も定員数を減らす時代ですが、今回がんセンター開設の重要性を市議会で理解してもらい、定員を40人増やすことができ、がん関連予算も少し増えましたので有効に生かしたいと考えています。
今後は、すでにある地域周産期母子医療センター、脊椎・人工関節センターと併せて、がんセンターを3本目の柱として特色をしっかりと出していきたいですね。
また、徳島大学病院とはこれまで以上に人事面で交流し、当院が半ば附属病院として若手医師の育成にも役割を果たすことができれば、必然的に医療の質もより一層向上すると考えています。