鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 歯科医学教育実践学分野 田口 則宏 教授
■受賞 第1回日本歯科医学教育学会教育文化賞
■学会等 日本歯科医学会(評議員) 日本歯科医学 教育学会(評議員・常任理事・教育能力開発委員会 委員・ 卒後教育委員会委員) 日本総合歯科学会(常 任理事 ・広報・編集委員会委員長) 日本補綴歯科学 会(専門医・代議員) 広島大学歯学部非常勤講師 九州歯科大学歯学部非常勤講師
「第34回日本歯科医学教育学会総会および学術大会」実行委員長が語る"教育"と南九州初開催への思い
鹿児島大学歯学部は、この春、新たなカリキュラムで動き出す。教育担当としてかかわってきた歯科医学教育実践学分野の田口則宏教授に、その狙いや、実行委員長を務める「第34回日本歯科医学教育学会総会および学術大会」への思いを聞いた。
―歯科医学教育実践学分野の特徴は。
附属病院では「歯科総合診療部」を担当しています。もともと学生の臨床実習を主に担当する部署として組織されました。今は、卒後臨床研修を管理する立場とともに、臨床教育のカリキュラムの立案、コース・プログラムの運営、研修評価など教育的なことをやっています。
それに合わせて、小児歯科、矯正歯科、口腔外科などの診療科のくくりにこだわらない横断的な立場として総合歯科医療を行うとともに、初診患者さんの医療面接、医学部の入院患者さんの周術期口腔管理という役割も担っています。
一般的に総合診療部というと高頻度治療、感染対策、安全管理、診療録の書き方、保険点数の取り方など、どこの科にいてもできなければならないことを行ない、学ぶ部署である場合が多いです。
私どものところは、もちろんそれもあるのですが、「教育」を前面に打ち出すことで、差別化を図っています。私は、「メディカルエデュケーション」という医学教育の学士をイギリスの大学院で3年かけて取りました。これを持っている歯科医は日本にほとんどいないでしょう。それを売りの一つにしています。
鹿児島大学歯学部のカリキュラム改革にも取り組んでいます。「修了者が到達すべき目標を明確化し、これらの目標を達成できるような教育の提供を、説明責任を持って行なう」と定義される「アウトカム基盤型教育(OBE)」を導入し、この春の新入生から新カリキュラムで動き始めています。
このOBEを歯学部系で取り入れたのは鹿児島大学が初めてではないでしょうか。医学部では千葉大学が最初に始め、いまはいくつかの大学でやっています。
それぞれの段階で身に付けるべき能力がきちんと身に付いているかをチェックしていくことで、「国家試験に合格したけれど何もできない」というような歯科医をつくらない教育の質を保証するシステムです。今後全国的にも、これからどんどん取り入れられていくのではと思います。
当大学では、知識、医療の実践、コミュニケーション能力、地域医療、リサーチマインドの5項目をコンピテンスと定め、卒業時までに身に付けてもらいます。その到達目標に向けて、逆算をしながら新しい科目をつくりました。
臨床実習というと、医学系ではほとんど切開したり手術したりというのはないですよね。歯科は本当に歯を削らないと卒業できない。医学部の先生から教育するのが怖くないですか、と言われたりもするのですが、それぐらい一生懸命、腹をくくってやっている部分をしっかりアピールするとともに、もう少し充実させようと思っています。
―最後に、7月の第34回日本歯科医学教育学会総会・学術大会への思いを聞かせてください。
もともとこの日本歯科医学教育学会は、全国の歯学部を持つ29大学が学部を挙げて運営するというものです。
今回34回目で、鹿児島で初めて開催。最後まで開かれてこなかった、つまり教育という面ではやや遅れていたということも言えると思います。
教育をやってきた身としては、この会を引き受けたことで「鹿児島でもしっかり医療者教育をやっていますよ」ということを全国に発信したいという思いがあります。
江戸時代の薩摩藩には「郷中教育(ごじゅうきょういく)」という異年齢交流による師弟教育の方法がありました。その中で頭角を現していったのが、西郷隆盛や大久保利通だったわけです。
そこで今回のテーマは「歯科医学教育の質の保証―リフレクションとイノベーション」としました。昔のやり方をじっくり振り返り、そこから改革につなげていく。そんな会にしたいと思っています。