にのさかクリニック・バイオエシックス研究会 米沢慧「いのちを考える」セミナーより

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心(いのち)の劇( 死生学) としてのホスピス

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矢満田篤二・萬屋育子著(2015)。光文社新書、定価税込950円
なお筆者は印税相当額を慈恵病院のこうのとりのゆりかご並びに24時間無料電話相談活動などの一助にと、寄付を申し出ている。

 「ホスピス運動」について米沢慧氏はエリザベス・キューブラー・ロスを中心に取り上げた。題して̶E・キューブラー・ロスの『死ぬ瞬間』を読み直す-

 米沢氏の問題意識は「ホスピス運動を身近なものとしたい」ということのようだ。各地での学習会、セミナーをはじめ全国各地の活動を訪問することを通して手応えを感じているように思う。

 思想を鍛え、文章を書く人として、「既製の言葉では表現できないものを表現したい」「行政用語で規定されないもの」を「生きている言葉として」表現したいと考えている。彼はこれを「いのちことば」と呼び、『いのちことばのレッスン』というブログを書いている。http://yoneyom.blogspot.jp/

 「運動としてのホスピス」について、「Hospice;theliving idea」を「ホスピス-その理念と運動」と訳して出版したように、、米沢氏はホスピスの、運動としての本質にこだわり続けてきた。彼の言葉によると、「死( いのち) を社会がどう受けとめていくか」「亡くなる人を看取るとはどういうことか」といった問題意識となる。

 1815 年アイルランドのSisters of Charity( 慈善修道女会) の発足以来、200 年の歴史を有するホスピス運動の本質を探り継承し、現在の日本のように『緩和医療』という枠に閉じ込めることなく、<ホスピス>を探り出し、現在の自分たちのものとしていきたいという思いを感じる。

 ホスピスの母は、4 人+1人

 アイルランドのメアリー・エイケンヘッド、イギリスのフローレンス・ナイチンゲールとシシリー・ソンダース、それにマケドニア出身でインドでの活躍で知られるマザー・テレサの4人を「ホスピスの母」と呼ぶことに異存はないだろう。米沢氏は今回、ここにエリザベス・キューブラー・ロスを加えたいと提案した。キューブラー・ロスをホスピス運動の主流に加えることに異論のある人もいるかも知れないが、まずは彼女の仕事を振り返ってみたい。

 1961 年に出版された"On Death and Dying" ( 邦題『死ぬ瞬間』1971 年) は世界に大きな影響を与えた。亡くなっていく人にインタビューし、その行動と言葉を分析し、理論化し、心の流れを見いだした。病院から嫌われながらも、末期患者を探して回りインタビューしたという。医師―患者関係としてではなく、1 人の人間として語り、学生の講義にも活用した。

 当時の(ひょっとして今でも)病院は、死んでいく人は治療の対象とならないと考えられ、意見を言う権利のない人間のように扱われた。ことばを変えていうと、死に行く人の心や感情、思いには目を向けなかったと言える。ロスの仕事は、そこに目を向け、掘り下げ、理論化したという点で医学・医療が見落としてきたものを、人間としての視点から取り戻したといえるのではないだろうか。

 当時の時代背景として、1967 年南アフリカでの心臓移植と、イギリスでのセント・クリストファー・ホスピスの誕生をあげることができる。医学の発達で人類がいのちをコントロールできるのではないかという面と、一方で死する運命にある人間が、最期まで真のいのちの価値を見いだそうとする試みの両極端をそこに見ることができる。同時に時代は、広島、長崎の体験を経て、次の核戦争が起こったら人類は滅亡するという核の時代に入った。核は抑止力として、使えない兵器となった。

 生命の概念が大きく変わったこの時代にバイオエシックスが生まれ、発展したのは偶然ではない。

 死の受容の五段階と自然的感情の肯定

 死とその過程としてロスが提起した5 段階説はあまりにも有名であるので、ここでは詳述しない。米沢氏は、「各段階を通してずっと存在するものがある。それは希望である。」というロスの言葉を引いている。各段階に応じて手にすることのできる希望を、人はもってすすむ、と。

 ターミナルライフの身体的苦痛のケアに対応して、心的な解放と霊的な癒しの道を探るには、死の受容の5 段階にそれぞれ対応する自然な感情表現に意識を向ける必要がある、と米沢氏は指摘する。第一段階の「否認・孤立」では、「恐怖」が圧倒している。第二段階の「怒り」には「怒り」の感情が対抗し復元されている。第三段階の「取引」に対しては、「嫉妬」や憐憫が引き合わされている。第四段階の「抑欝」に対しては「悲哀」が退行しながら、第五段階の「受容

 ソンダースとキューブラー・ロス

 近代ホスピスの母といわれるシシリー・ソンダース(1918~2005)は、同時代を生きたキューブラー・ロスをどう評価したのだろうか。ソンダースが設立したセント・クリストファーホスピスの理念として、次の5 つが掲げられている。①患者を一人の人間(total person)として扱う。人は患者として亡くなるのではなく、人として死んで行く。②肉体的な苦痛を和らげる。(symptomcontrol 症状コントロール)③不適切な治療(inappropriate treatment) を行なわない。亡くなって行く人に生きている人と同様な治療を行なわない。④家族の死別ケア(悲嘆のケアgrief care)を行なう。⑤チームワーク(teamwork)

 1970 年代、2人はイェール大学を出発点に、アメリカ各地で一緒に講演を行なったことがある。「死の受容の5 段階説」を持って世界に大きな影響を与えたロスと、トータルペインの概念を提示したソンダースの熱意あふれる競演を今は聞く機会もないが、お互いに敬意を持ち、競い合いながら学びあったことだろう。

 ホスピス運動の流れの中で、エリザベス・キューブラー・ロスから学ぶべきものはまだまだたくさんありそうだ。(文責:二ノ坂 保喜)

 1980 年イギリスのセント・クリストファー・ホスピスに世界16 カ国から68 名が集まり始めて開かれたホスピス国際会議の記録。わが国では『ホスピスケアハンドブック』として出され、その後米沢慧氏の監修で『ホスピス-理念と運動』として雲母書房から再刊された。


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