リンパ浮腫手術の名医が描く僻地医療の未来図

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公立世羅中央病院 末廣 眞一 院長

山口県立岩国高校卒業 1981 年 広島大学医学部医学科卒 1981 年 原爆放射能医学研究所外科入局 1982 年 広島赤十字病院原爆病院にて研修 1984 年広島大学大学院第二病理学教室へ出向 1988 年 広島済生会病院外科勤務 1988 年 乳がんの局所進展に関する研究で学位取得 1994 年 大柿町浜井病院外科勤務 1998 年 世羅中央病院外科勤務 2005 年公立世羅中央病院院長に就任 2007 年 広島大学医学部非常勤講師 2011 年 広島大学医学部臨床教授

地域医療の最先端

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 JR山陽線・河内駅で芸陽バスに乗り換え1時間。山肌にへばり付くように延びるバス道路は、沼田川水系の椋梨ダム(白竜湖)を抜け渓谷沿いに世羅台地へと続いている。

 公立世羅中央病院は世羅郡唯一の町、世羅町の中心部に位置し、救急医療体制も完備した地域医療の要として機能している。しかし、末廣眞一院長は広島県における医療の地域格差について懸念材料が多いと話す。

 「広島県は全国でも市町村合併が進んでいる最前線で、87あった市町村が23にまで減っています。そのため、交通の便が悪い地域では医療難民ともいえる問題が起きています」(末廣院長、文中以下同)

 「(合併すると)小さな町の患者さんは困るんです。お年寄りはバスのステップも登れないし、ましてや電車なんかには乗れない。だから地域に一定の機能をもった小さな病院が残らないといけないと思います」

病院の特色

 末廣院長が陣頭に立つ公立世羅中央病院は、1945年に開設された国保診療所が発端となる。その後、16カ町村が統合した世羅地区病院組合が結成され、1953年に母体となる世羅中央病院が開設された。地域からの要請を背景に増床、組織改編を繰り返し、2010年に三原市立くい市民病院を編入して現在の体制となった。

 「このあたりは三原や尾道、三次、庄原などの大きな都市まで30キロほどある陸の孤島なので救急は積極的に受け入れています。また、国民健康保険直営診療施設でもあるので、通常の診療にくわえて、検診や予防も大きな柱のひとつです」

 こうした地域救急医療への貢献が評価され、末廣院長は2013年に広島県から救急医療功労者知事表彰を受けている。

医師の確保

 公立世羅中央病院の古くて新しい課題として、医師の確保という難題がある。

 「医師を確保するためにいろんなことをやりました。研修医が無理だとしたらリタイアした先生はどうかと声をかけたり。とにかく医師の数をそろえたかったんです」

 職員一体となった医師確保の努力が功を奏し、現在では常勤12人(内歯科医1人)、非常勤21人(内歯科医4人)と、比較的安定した医療体制を維持できている。

リンパ浮腫手術

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末廣院長が開発したリンパ浮腫手術を報じる新聞記事『中国新聞』06年1月18日

 末廣院長は院長職以外にもリンパ浮腫手術の名医として知る人ぞ知る存在でもある。

 がん手術に起因するリンパ浮腫は、発症率約20パーセント。リンパ管のもろさが難点といわれる手術だが、末廣院長は独自の手法を編み出し、新術式として成果をあげている。

 「赴任した当時の空いた時間を使ってリンパ浮腫について勉強したんです。そのうちに患者さんを手術する機会があり、手術後の経過がすごく良かったんですよ。それが新しい術式だったので新聞に紹介されたら全国から患者さんがどっと来るようになりました。病院としてはアピールしていないんですが、口コミで患者さんが来るんです。手術症例がどんどん増えて、外科手術の年間規模が当初の6千万円から7億円くらいまでに拡大しました」

地域枠入学に期待

 僻地医療体制の改善や医師の偏在の解消策として、近年、各医学部に地域枠という入学枠が設けられることが多くなった。当該地域(おもに僻地)で医療活動に従事することを条件とする入学枠だが、導入する大学も増加し、全医学部入学者の10パーセント以上が地域枠での入学者だといわれる。

 「これからは、地域枠で医学部にはいったドクターがどんどん卒業してきます。僻地医療の現場としては非常に期待しています」

中山間地の拠点病院

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世羅町の中心部に建つ公立世羅中央病院病床数135床、療養病床20床

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椋梨ダム(白竜湖)

 末廣院長は病院の将来像について、僻地医療の中核病院として機能する夢を描いている。

 「当院は三次、庄原、三原、尾道の中間に位置しています。ですから、医療を完結するために中山間地の拠点病院として当院を推してもらうように動いています。そのためには病床数を200床まで増やしたい。研修医の確保もできるようになります」

 末廣院長は、中山間地の拠点病院として機能する意義として、①地方・僻地は高齢者が多いので有病率が多い、②地形や距離の問題もあって往診もしにくいので都市部の病院よりベッド数を増やすべき、と指摘したうえで、地方独特の事情についても言及した。

 「ある程度自活できるまでは療養型の病棟でケアして帰宅させたいんです。地方では在宅医療・介護が老老介護になることも往々にある。在宅のほうが医療費が安くなるという意見もありますが、家族の介護負担を無視した議論だと思います」

 地域枠で入学した意欲のある医師が公立世羅中央病院で研修を受け、末廣院長の薫陶を受け各地に巣立っていく――。医療未来図を実現する中山間地拠点病院の指定を受けるため、末廣院長は今日も奔走する。

【取材雑記】
 「ちょっとスピリチュアルな話になっちゃうんだけど......」。
インタビューも終わりに近づいたころに末廣院長が語り出したのは、自身と世羅地域をめぐる因縁と運命の物語。詳細を綴る紙幅はないが、先端技術を駆使する名医が落武者伝説を語るというギャップに、ちょっとした知的興奮をおぼえた。

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