徳島大学 糖尿病臨床・研究 開発センター 特任教授 松久 宗英 センター長
高い糖尿病死亡率
徳島県は、糖尿病死亡率全国ワースト1位というありがたくないことで有名です。1993年から2006年までワースト1位を続け、2007年に一度ワースト7位に下がりましたが、それ以外はずっとワースト1位が続いています。
現状を改善するために、官民学が一体となって、さまざまな取り組みを始めています。徳島県は2007年に糖尿病克服会議を立ち上げました。中心にいるのは徳島大学糖尿病臨床・研究開発センターの前センター長、松本俊夫先生で、行政を中心に県下の糖尿病や肥満などの栄養管理部門、看護師、医師を統合した対策会議です。
もうひとつが、川島病院・野間喜彦先生が班長である徳島県医師会の糖尿病対策班で、大学では徳島大学が中心となって糖尿病臨床研究を行っています。
医師会の糖尿病対策班は、取り組みの一環として糖尿病認定医制度を作りました。認定医は400人を超えています。
また、患者さんに近いところで生活指導しているコメディカルの方々もレベルアップしてもらうために、ローカルCDE(Certified Diabetes Educator)という糖尿病療養指導士の地域版を作っています。これまで280人以上の方が認定されて、県内で広く糖尿病の患者指導にあたっています。
糖尿病患者が多い理由
ひとつ考えられるのは交通の便の悪さでしょうね。車社会化は特に徳島県に限った現象ではありませんが、地域公共交通機関の未整備が歩かない人を増やしているのは事実でしょう。
食事の内容では炭水化物を多くとる傾向があります。お遍路さんのおもてなしで家にお菓子を置いている家庭が多いということも指摘されています。
徳島県人固有の原因について明らかにするために、当センター臨床研究分野長の船木教授は1400人が参加するコホート研究を行っています。
センターの特徴
徳島大学の糖尿病研究者が、組織を横断的に集まったチームです。基礎研究、疫学、薬学、栄養学を含めたエキスパートの集合体といえます。
目的をひとつにした基礎研究と臨床研究がコンソーシアムを作り、基礎研究を臨床に早く受け入れる体制を作っています。一人で考えることには限界があるので、議論を通じてそれぞれの研究者の知恵を集めると次にやるべきことが見えてきます。
大学としても大きな研究を推進したいということで、文科省の地域イノベーション戦略支援プログラムの支援を得て、臨床研究の後押しをしてもらっています。
医療観光への展開
4年前から医療観光を始めていますが、予想通りには進んでいません。
徳島県が中国にチャーター便を2週に1便出す計画があり、中国の方を対象としました。その後、いろんなことが重なって中国向けの便がうまくいかなくなり、4年間で累計30人程度にとどまっています。
中国人の医師もいるので、中国語で補助してもらって診療する体制は整っています。他県の日本人向けや英語圏むけに同様のことができないか、という提案もあるので準備していきたいと思います。
地域との医療連携
診療のしくみとして一番大事なのは、普段はかかりつけ医のもとで治療を行ない、問題が起こったら専門医にかかるという医療連携です。
徳島県では、この連携にITによるネットワークを用いています。特に、開業医のデータとわれわれのデータがポータルサイトで同時に閲覧できることは、他地域にはないシステムです。検査の推移やどんな薬を飲んだのかなどを専用ネットワークで見られるようになっています。
2012年から動き出し、全県下にはまだ行き届いていないので、まずは大きな病院とのネットワークを作って、その周囲の開業医に広げていくという展開を目指しています。
機関病院が「点」のネットワークにつながることで、開業医の先生にもメリットが生まれ、改めて「面」でネットワークを広げることができるでしょう。
現在、700人の患者さんがエントリーしています。医師会との連携、経費やシステム、セキュリティの問題を一つひとつ解決していきます。
【記者の目】
取材先では、ご当地ラーメンを食べる機会も多い。
徳島ラーメンの特徴は卵入り。日ごろ博多の豚骨ラーメンで鍛えている身だが、途中リタイア。ご飯と一緒に食べるという徳島県民の健啖家ぶりに感服。