コラムニスト編集長の「コラムニストになりませんか」に背を押され、奮闘する新人の話(第2回)。
その日の編集部は、編集長と私の2 人きりだった。なんとなく流れで一緒に昼食に行くことになり、外に出た。そこから、修業は始まった。
「コラムニストの目で歩く」がモットーの編集長は、シャキシャキとは歩かない。その日は、突然、バス停の標識に近づいていった。動かないように金網に針金で縛りつけられていたのだ。
「かわいそうなバス停...」とつぶやくと、そのバス停をなでまわし、コンコン叩き、のぞき込む。そして「この前までは自由だったのに」「かわいそうじゃなくて、恵まれているバス停かもしれませんね」と続ける。
やっと歩き出した。と思ったら今度は右手で街路樹に触れながら進んでいる。「今日は元気だな。ハリがいい」などと言っている。私は周囲を見回し、距離を少し広めにとった。
交差点にたどり着くと、「今日はあのおばさんいないね」。昼食の牛丼を食べた後の帰り道は「行きと帰り、同じ道は通りません」。会社に戻るまでの約1時間、編集長は常に何かを考え、何かを見て、しゃべり続けていた。
私は、ぐったり疲れて社に戻った。その一方で、「この疲労感を無駄にすまい。コラムのネタにしてやろう」とも思った。
もしかしたら、こうやってコラムを書くように仕向けられているのかもしれないが、それはそれで、またおもしろい。ネタはこんなに近くにもあることが分かったのだから。(小 鉢)