香川大学医学部眼科学講座 辻川 明孝 教授
医療の平準化と個別化を図りプロフェッショナルの一歩先を見据えて
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研究内容について
専門は黄斑疾患です。加齢黄斑変性は欧米では中途失明疾患の2番目の原因にあたり、日本においては4番目の原因疾患となります。
まだ詳細な原因解明には至っておらず、環境的因子と遺伝的因子に加え加齢が原因と考えられています。環境因子としてはたばこや日光暴露などが考えられます。
15年ほど研究を続けていますが、近年急速に増加している病気です。10年くらい前までは良い治療法がありませんでしたが、現在は眼球に直接注射する硝子体注射で視力が改善されるようになりました。
30年くらい前までは日本ではほとんど見られなかった病気です。増加している原因としてはライフスタイルの欧米化が関係していると推測されています。
かつては有効な治療法がなかったので、経過を診るしかありませんでしたが、現在は、有効な治療法が導入されてきたので早く治療を開始すれば良い視力が維持できるようになってきました。良好な視力を得るためには、なにより早期発見・早期治療が大切です。
香川県内でこの治療を行っている施設は限られていますが、日本全体では増えています。
硝子体注射をすることで治療できるようになりましたが長期にわたって注射を続ける必要がある患者さんもいます。
眼科学講座の特徴
香川大学の眼科は、網膜に対する内科的な治療、外科的手術、緑内障を3本柱として重点を置いて診療にあたっています。眼科医師の在籍数は13人で、特徴としては手術数が多いことです。年間約1500例の手術を行っています。
高松市中心部から少し離れた立地にあるので、患者さんの利便性を考えて、できるだけ受診回数を少なくしたいと思っています。早期に紹介していただいて、重症化する前に治療することを目指し、眼科以外の先生とも積極的に協力していきたいと思っています。
研究の展望
加齢黄斑変性については、やはり予防が大事だと思います。とくに遺伝的な原因が多い病気ですのでリスクの多い患者さんにはサプリメントの内服や禁煙によって積極的に予防する必要があります。
将来的にはiPS細胞などの再生医療にも注目しています。ただ、眼の構造は複雑なので眼の一部を再生できたとしてもきちんと機能するかどうかはまだ未知数です。現時点では、今行うことのできる硝子体注射をいかに効率よく行っていくかが一番の課題だと思います。
一般の方が病気を早期発見するためには、時々片眼ずつ見る習慣をつけていただきたいものです。両眼で見ていると気が付かないことも多いので。片眼ずつ見てなにかおかしいと感じたら早めに受診する。早期発見することができれば良い視力が残る可能性が高くなりますので。ぜひやってみてください。
標準化と個別化
眼科学講座は、「患者さんを中心とした医療を行う」というスローガンを掲げています。治療においてはガイドラインから大きく逸脱することがあってはいけませんが、患者さん一人ひとりに応じた治療を行うということ(個別化医療)を目指しています。ガイドラインや指針は医療の質を底上げする効果がありますが、それだけにとらわれるとそれぞれの患者さんにとって適切な医療を実現することはできないと思っています。
治療の標準化はもちろん必要ですが、それだけでは不十分です。医師としてプロフェッショナルであり続けながら、標準化と個別化を意識することが重要だと思っています。患者さんは眼の状態だけでなく、遺伝的バックグラウンドや社会的な環境、ものの考え方も異なっています。患者さん一人ひとりに応じた治療を行うことを目指していきたいと思います。
【取材旅日記】
高松から"ことでん"(高松琴平電気鉄道)に乗って約30 分。無人改札をくぐると、古い駅舎で駅員が居眠りしているのが見えた。乗客もとくにとがめることもなく、いつもの日常なのだろう。のんびりした時間の流れにのまれたのか、病院行きのバスで少し居眠り。