第40回日本脳卒中学会総会会長 松本昌泰・広島大教授に聞く
(第40 回日本脳卒中学会総会、第44 回日本脳卒中の外科学会学術集会、第31 回スパズム・シンポジウム)
会 長 松本昌泰氏(広島大学大学院脳神経内科学)
副会長 清原裕氏(九州大学大学院環境医学)蜂須賀研二氏(門司メディカルセンター)
森悦朗氏(東北大学大学院高次機能障害学)
開催日 3月26 日(木)~ 29 日(日)
会場 リーガロイヤルホテル広島、メルパルク広島、NTTクレドホール、広島グリーンアリーナ
3月26日〜29日の4日間、広島市内で第40回日本脳卒中学会総会が開かれる。会長は広島大学の松本昌泰教授。松本教授に、脳卒中への取り組みや、学会への思いを聞いた。
脳卒中は長く人々を苦しめてきている病です。世界で2秒に1人、日本では1分30秒に1人発症しており、日本はトップランナーにいるわけです。
急速に高齢化が進む中で、少しでも食い止めないと大変なことになりますし、マスではなく1人の患者さんを考えた時には、その患者さんのみならず、ご親族全員が苦しむことになる。発症・再発の予防、超急性期から慢性期の治療...。脳卒中に対する戦略全体を考えましょう、というのがこの学会です。
広島は、原爆からよみがえった街です。初開催となるこの広島から、脳卒中制圧に向けた力強いメッセージを国内だけでなく国外にも発信したいとの思いで、大会テーマは「Message from Hiroshima for Ending StrokeEpidemic」としました。
さらに、これから10年間、人々を守るために、いかに全力で努力するか、その目標を定めた脳卒中治療の10年計画を「広島宣言」として発表します。
先日、国際脳卒中学会のプレナリーセッションで、J‐STARS(Japan Statin Treatment Against Recurrent Stroke )の報告をしました。日本中の123施設、600人以上の協力を得て実施した医師主導型多施設共同臨床試験です。
10年余かけたこの臨床試験でわかったことは、みんな脳卒中を克服するために必死だということです。日本、アジアで多い病気は、日本で研究が進んでいます。アジアのリーダーとしてまとめる力を持ち、世界に向けて発信することが大事です。
◆医療は闘い
医療の世界は病との闘いです。闘いは、フォーメーション、戦略が大事です。でも、日本はその戦略性が非常に欠落しています。茶道、華道、剣道...。個人の技に持っていく傾向にあるのです。
戦略性に優れていたのは織田信長で、彼の率いた美濃の兵隊は、1人ずつ見ればとても弱かったけれど、長い槍や鉄砲を用意して、勝っています。医療でも一人ひとりはものすごく頑張っています。それをまとめていくことが必要だと思います。
松本昌泰教授が監修し、今年1月5日に発行された「臨床ナースのためのBasic&Standard 神経内科看護の知識と実際」。「神経内科疾患を理解する」「神経内科疾患の理解とその看護」「神経内科看護の実際」「リハビリテーションと在宅ケア」の4章で構成されている。編著は広島大学大学院脳神経内科学の丸山博文准教授と日本赤十字広島看護大学老年看護学領域の百田武司教授。メディカ出版発行、3,600 円+ 税
学生時代、私は免疫学に興味がありました。がんを克服する助けになりたくて、脳卒中は「血が出るか詰まるかだからおもしろくない」と思っていたほどです。
でも、卒業してしばらくして父親が脳梗塞になりました。すると大変なんです、現実は。しかもどうしたらいいのか分からない。そこで初めて、学生の時に習ってきたのはメカニズムや診断、治療の分類だったと気づいたわけです。
そして、その領域に入ってみると大変だということが分かるとともに、熱心に診療・研究している大学が極めて少ないことを知りました。
神経内科は、小さな教室だと思われがちですが、アメリカのメイヨー・クリニックでもハーバードでも1番大きいのが神経内科です。脳卒中などの脳血管障害、認知症、てんかん、それらだけでも大変ですが、頭痛も難病もあります。
ではなぜ、日本では難病を診る特殊な科というイメージが強いのか。それは神経内科が後発の科で、内科、精神科、脳神経外科、整形外科という先にできていた科が神経内科学のポピュラーな疾患を診てきたからです。
そして、今も、地域によっては脳卒中や血管性認知症という内科の病が脳外科医にしか診てもらえないという状況が続いています。
外科手術は大事な治療法ですし、脳外科の先生は頑張ってくださっていますが、本来の専門の科がきちんと対応し、システム的に組むことで、いい医療ができるのが理想ではないでしょうか。
◆マインドのある神経内科医育成を
医者は身を正さないといけない領域。そうでなければ患者は医者の前で心身とも裸にはなれないでしょう。
最近は総合医がクローズアップされていますが、総合医の後に患者を引き受ける専門医がいないと話になりません。病者のQOLのため、最後まで診る熱意を持ち、努力をしたスキルのある医師が必要です。マインドのある神経内科医を育成することが責務だと思っています。
- 【記者の目】
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「ちょっと待ってね、頭を整理するから」
足早に目の前に現れた松本昌泰教授は、そう言って、取材要旨が書かれた書類に目を通し始めた。
そして、次に口を開いた時から終了までの約1時間、ものすごい速さで、しかし時にはユーモアを交えながら、語り続けた。
休みがほとんどない状況にも「よう働かせてもらえている」と感謝し、読んでいる本は常に並行して3〜4冊。トイレの中でも読書、お風呂でも読書で、「小学校の時、遊び倒したのでね、今、勉強しているわけよ」と楽しそうに笑う。
「昔は忍者部隊の隊長だったからね、全力で、悪いことばっかりしていたの」と幼いころを振り返った松本教授。広島大学大学院脳神経内科学教室の「隊長」となってこの4月で13年。今日も全力で、医療、すなわち「病との闘い」に挑んでいるに違いない。