医療事故と法律(20)
これまで何度かにわたってお伝えしてきた、厚労省「医療事故調査制度の施行に係る検討会」の議論は、最終的に合意に至らないまま終了したようです。
複数の報道によれば、もっとも紛糾したのは、遺族への説明方法でした。
この日、厚労省が提出した通知のイメージは、「遺族への説明については、口頭(説明内容をカルテに記載)又は書面(報告書又は説明用の資料)若しくはその双方の適切な方法により行う」、「調査の目的・結果について、遺族が納得する形で説明するよう努めなければならない」というものでした。
一方、広尾病院事件の被害者遺族である永井委員からは、事故調査報告書を原則的に被害者・家族に手交してていねいに説明すべきであるとの意見書が出され、他方、医法協(日本医療法人協会)派の田邊弁護士からは、「真に医療安全を願うのであれば、刑事手続への調査結果の利用などは絶対にあってはならないことであり、被害感情の強い遺族などが調査報告書を捜査機関に提出して告訴等に利用する事態は100%抑止する仕組みがなければ本制度は絶対に成り立たないと心得るべきである」との意見書が提出されています。
医療事故調査制度の議論は、2004年9月の19学会共同声明「診療行為に関連した患者死亡の届出について―中立的専門機関の創設に向けて」に遡りますが、今回の医療法改正の方針を定めたのは2013年5月に発表された「医療事に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」でした。
この「基本的なあり方」は、2008年に策定されたいわゆる第三次試案や大綱案が第三者機関による調査を中心とするものであったのに対し、院内事故調を中心とするという特徴があり、その点において、医療事故被害者及びその遺族からは、中立性・公正性・透明性についての懸念が示されていました。
しかし、その「基本的なあり方」でも、「院内調査の報告書は、遺族に十分説明の上、開示しなければならないものとし...」と明確に記されていたのです。
私が調査をしている医療事故でも、院内事故調査委員会で、あるいは第三者委員会での事故調査を行ったと言いつつ、医療機関側が遺族側への報告書開示を拒んでいるケースが少数ながら存在します。これはごく最近の傾向であり、医法協派の主張は一定程度、医療現場に影響を与えているのかもしれません。その中には、そのような医療機関の態度が遺族の不信感を増幅させ、紛争解決がいたずらに困難になっているケースもあります。
一方、この日の検討会に提出された資料の中には、日本病院会の2014年度医療安全に係わる実態調査も含まれていました。ここでは、事故調査報告書を遺族に渡すことに関して、73.9%の医療機関が「当然手渡すべきである、匿名性に配慮した上で手渡すべきである」との考えを示しており、「説明を十分に行うので説明しなくてよい」という考えを示したのは13.2%に過ぎませんでした。現段階では、医法協派の意見に共感する医療機関は少数にとどまっていることになります。
この検討会の報告書がどのような形で発表されるのか、厚労省の通知が最終的にどのようなものになるのか、予断を許しませんが、被害者遺族の願いに応えるものであってほしいものです。それはまた、中立・公正な医療事故調査を推進する方向でもあるはずです。
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