BPSDさえ改善すれば認知症はこわくない

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国立病院機構 菊池病院 木村 武実 院長

1984 宮崎医科大学医学部卒業 熊本大学医学部神経科精神科研修医 1986 宮崎県立宮崎病院精神科研修医 1991 熊本大学大学院医学研究科卒業 国立療養所菊池病院臨床研究部研究員 2002 熊本大学医学部附属病院神経科精神科講師 2003 医療法人明和会東家病院副院長 2007 独立行政法人国立病院機構菊池病院臨床研究部長 2014 同院長■専門分野:老年精神医学 ■所属学会:日本精神神経学会(専門医・指導医)、日本老年精神医学会(専門医・指導医)、日本認知症学会、認知症予防研究会( 理事)■精神保健審判医、熊本県精神科病院審査委員、熊本県精神保健福祉審議会委員

 認知症の認識に医療者の間でも温度差が激しい。異なった理解も多々あるようだ。

 熊本県合志市にある菊池病院に木村武実院長を訪ね、認知症の実際について聞いた。

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日本医療マネジメント学会(2月28日、エルガーラホール=福岡市中央区)で認知症の診断と治療の可能性について講演する木村院長。

 高齢者になると認知機能が低下し、記憶障害や見当識障害、実行機能障害などがでてきます。これを「中核症状」と言います。

 認知症で問題になるのはこの中核症状よりも、幻覚や妄想、昼夜逆転などの「周辺症状」で、最近はBPSDと言っています(※1)。

 中核の症状、たとえばもの忘れが少しずつ進むだけならそんなに問題はないと思いますが、いろんな要因が重なってBPSDが出現すると、その姿を見て多くの人が認知症に恐怖を感じるかもしれません。

 認知症の主な臨床疾患は、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、前頭則頭葉変性症、レビー小体型認知症の4つです。治療薬としてはアルツハイマー型認知症(以下、AD)しかない状態で、つい先ごろ、レビー小体型の治療薬が1つ認可されました。

 しかしADになって薬剤でもの忘れの進行を抑えようとすると、BPSDが出てくることがありますし、副作用でQOLが低下する場合もあります。

 もの忘れが少しずつ進行するのはやむを得ないことで、その進行にあまりこだわるとBPSDを起こして患者さんを苦しめ、ご家族にも介護負担がかかることになります。余生を平穏に過ごせることが一番だと思います。

 1年前に当院で軽度の認知症と診断された方が、もの忘れが進んだと深刻な表情で半年後にお見えになることがありました。そこで認知機能検査をするとそうでもありませんでした。もの忘れが進むことに対してご家族が過敏になると、BPSDの前触れであるかのように患者さんに言われるため、本人がもうダメだと気落ちしたり、精神状態が不安になって眠れなくなったりすることがあります。

 急にもの忘れが進んだ場合、慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症、あるいは甲状腺機能が悪くなったりとかは元に戻すことができるわけですから治療しなければいけません。でもゆっくりした変化を無理に治そうとするとBPSDを悪化させることもあるので、私自身は、急激な変化以外は無理に治療する必要はないと思います。自然に老いているのにいろいろ病気だと診断して、薬剤をどんどん処方することで、逆に本人の体によくないこともあるわけです。

 冒頭にも触れましたが、単なる認知機能障害=認知症だと思わずに、テレビなどでいろいろ摺り込まれて、いろんな大変な症状が出てくるのが認知症だと考えれば、がんよりも怖いと思う方もおられるでしょう。

 最近、認知症が治るという本を書かれた医師がおられます。それはBPSDが治るという意味で、それに伴って認知機能も一時的によくなるのです。

 BPSDの原因は25・4%が薬剤で、12・7%が身体合併症、体+薬が11・2%。4分の1は自分に合わない薬剤で起きているわけです。

 私は「BPSDはBPSDで対応する」という治療戦略を立てています(※2)。薬剤や身体合併症、あるいは、痛い、かゆい、吐き気がするなどの不快な症状、さらに甲状腺機能低下や脳腫瘍のような治る認知症の要因になるものもBPSDの原因になります。ですからまず、薬剤や身体合併症などの身体的な側面をきちんと診るだけで半分は解決します。

 あるいは骨が折れて痛くて騒いでいるのに、骨折に気づかずパーソン・センタード・ケア(※3)がいいと判断しても何の意味もありません。まず身体を調べ、次が心理・社会的(サイコ・ソーシャル)な部分への対応です。介護環境が、夜眠れないような状況だったり、介護者が悪いところばかり指摘するようでは困るわけです。またこれまでどんな生き方をしてきたかを把握することも、治療を進めていくうえで大切です。

 だからBPSDをやっかいな症状だと思っているうちは治療的ではなく、患者さんがBPSDを通して何かを訴えている、それが何かを知るために、心理・社会的背景を把握する必要があります。

 サイコ・ソーシャルに基づくケアでもうまくいかない場合は、薬剤を含めた生物学的治療になります。これまで薬剤といえば、統合失調症の治療に使う抗精神病薬を用いていましたが、鎮静作用はあってもいろんな副作用、リスクが出てきます。そこで抗精神病薬を使わない生物学的治療はないかということになります。東邦大学医学部統合生理学の有田秀穂教授が、脳内のセトロニンを増やすことで精神が落ちつくという研究を行ないました。

 それによるとジョギングやウォーキング、縄跳びやフラダンスなどリズミカルな運動を5分以上続けること、歌や読経も良く、さらに日光浴や、マッサージや肩叩きを生活やリハビリに取り入れたらいいようです。

 さらに東北大学老年呼吸器内科の佐々木英忠名誉教授から、ある施設でラベンダーのエッセンシャルオイルを使ったアロマセラピーでBPSDが改善されたと報告があり、当院でも取り入れて改善を確認しています。また、「ADのアミロイドカスケード仮説」というのは、アミロイドという蛋白質が神経細胞を壊して脳を萎縮させ、認知症を起こすという仮説ですが、認知症を発症する20年以上前からアミロイドが脳内に溜まり始めて、神経細胞がどんどん減っていきます。つまりADを発症してからアミロイドを減少させる治療には意味がないわけです。しかし発症する前から治療を始めるのは倫理的にも安全性の担保の意味からも困難です。そこで私が提唱しているのは、薬剤以外の次の8点です。①適度な運動②カロリー制限、低脂肪食、赤ワイン(カベルネソーヴィニヨン種)③高HDL―C、低LDL―C④高血圧治療⑤糖尿病予防と糖質制限⑥禁煙⑦歯周病予防⑧7時間前後の睡眠、これらを行なうことによりアミロイドを分解する酵素を増やしたり、アミロイドを作る酵素を阻害することができます。

 BPSDがなくなれば、もの忘れは進むけれども周囲にそんなに迷惑はかけないし、がんになって人生を悟るようなことはないかもしれませんが、がんを怖がっていた人が認知症になってがんになっても全然怖くなくなっているという部分はあります。周囲の方がゆっくりとした目で見てもらえると安心して生活でき、それこそ病気に対する恐怖感や苦しみはなくなってくると思います。それもひとつの悟りと言えるのかもしれません。

※1=Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia の略で「認知症の行動・心理症状」の意。
※2=Bio(生物学的)-Psycho-Sosio(心理・社会的要因)-Drug(薬物を含めた生物学的治療)。
※3=認知症患者を1人の「人」として尊重し、その人の視点や立場に立ってケアを行なおうとする、認知症ケアの考え方。


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