宇宙と目の前の患者に情熱を傾けて

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久留米大学医学部整形外科学講座 志波 直人 主任教授 久留米大学病院 副病院長

■1982 久留米大学医学部卒、同整形外科入局 1991 米国Mayo Clinic 整形外科バイオメカニクス研究室留学 1998 久留米大学助教授 2004 同大学病院リハビリテーション部教授2006 同大学リハビリテーションセンター長 2012 同大学医学部整形外科学講座主任教授 2013 久留米大学病院副院長 現在に至る。
■2009 年国際公募ライフサイエンスおよび宇宙医学分野における国際宇宙ステーション利用実験の候補テーマ選定、国際宇宙ステーション・きぼう利用推進委員会生命科学(宇宙医学分野)パネル委員、内閣府主催宇宙政策セミナーパネリストなど

 地球から約400kmの上空を回り続けている国際宇宙ステーションに、久留米大学などによって生み出された装置があることを知っているだろうか。その機器を使った「ハイブリッドトレーニング」は、宇宙に長期滞在する宇宙飛行士の新たな健康管理術として注目を集めている。

 ハイブリッドトレーニングの生みの親、久留米大学医学部整形外科の志波直人主任教授に、誕生秘話や願い、後進への思いを聞いた。

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2013年、NASAジョンソンスペースセンター内での志波直人教授。(提供:志波教授)

アメリカで意識した「宇宙」

 もともとは股関節の疾患に取り組んできました。転機になったのは、1991年からのアメリカのメイヨー・クリニックへの留学です。

 メイヨー・クリニックがあるミネソタのロチェスターという町の空港に、アメリカの有人宇宙開発の写真や実物が展示されていました。「医者でも宇宙開発に関わることができるんだ」とインプットされたのは、その時でしたね。また、当初の留学の目的は股関節の研究でしたが、当時の教授だった井上明生先生の助言もあってリハビリの勉強も始めたのが大きなことでした。

 帰国してからしばらくは、手術をするなど股関節の疾患を診る仕事をしながら、リハビリも兼務していました。リハビリでやっていこうと覚悟を決めたのは、95年ごろのことです。

 留学時代の研究室のボスがエンジニアだったこともあり、医学部だけではなく、工学部の人といろいろな研究をやっていきたいという思いが明確にありました。エンジニアの人と一緒に仕事をすることもあったのでロボットにも興味があったんでしょうね。でも、人間の体には筋肉という力源がある。それをうまく使うことができればと思っていました。

1つのアイデアから始まった宇宙への道

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NASAジョンソンスペースセンター(提供:志波教授)

 脊髄損傷や脳卒中などの患者さんのまひした手足にコンピューターで制御した電気刺激を使い、リハビリをしたり機能を再建する機能的電気刺激(FES)の分野を選び、研究を進めていました。

 自分の体を使っていろいろ試す中で、ある時、腕を伸ばすための筋肉に電気刺激を与えながら、逆に曲げてみたんです。すると、ものすごい力が必要でした。その時、ポンッと「宇宙にも使える」とひらめいたんです。

 宇宙には重力がないので、骨も筋肉もものすごい勢いで衰えてしまいます。電気刺激を運動抵抗にすれば重りが使えない宇宙でのトレーニングがうまくいくのではないか。もちろん、臨床でも使える、と思いました。

 工学部の先生がすぐに装置を作ってくれ、それが、今も国際宇宙ステーションに置かれている「ハイブリッドトレーニング用電気刺激装置」へとつながっています。

 宇宙研究の窓口を探しましたが、簡単ではなかったですね。NASA(米航空宇宙局)からは何度も却下されました。でも、却下されながらもNASAの研究会に招かれ、その時、アジア初の女性宇宙飛行士で医師でもある向井千秋さんと隣の席になりました。それが2000年1月28日。偶然にも装置の特許書の日付と同じ日なんです。

 その後、2002年に文科省と当時のNASDA(宇宙開発事業団、現JAXA)が共同出資する日本宇宙フォーラムの地上研究に採択され、2年間は「萌芽研究」、2005年から3年間は「時期宇宙利用研究」として助成を受けました。

 次期宇宙利用研究となってからは、JAXAからいろいろなオファーが来たり、向井さんたちの研究チームに入れてもらったりと、宇宙に近づいた感じがしましたね。

 ジェット機に乗って無重力の実験に参加したこともあります。後に向井さんから「先生も宇宙飛行士に」と言われて「無理です」と即答したほどきつかったですよ。

 南極観測隊に機器を使ってもらった時には、機械が壊れるという経験もしました。初めて外部に機械を出して、われわれがまったく関わらない状態で使ってもらったので、機器の故障、その後の評価も含めて、課題がたくさん見つかりました。

ついに宇宙へそして、これから...

 その後、国際宇宙ステーションを利用した実験として2009年度国際公募で採択されました。2013年にH2ロケットに乗せて打ち上げられ、翌年4月から1か月間、実験されました。アイデアが思いついてからは15年近くたっていましたね。

 脚での実験を希望したけれど腕になり、バーチャルリアリティー装置も作ったけれど付加的なものと却下され...と様々な妥協がありましたが、譲歩して搭載された結果、今は「すべてうまくいった」と思えます。

 宇宙で実際に行なった4週間のハイブリッドトレーニングによって、骨や筋肉に有効だという結果が示唆されています。

 今後は脚での実験の継続を要望しています。2年後ぐらいに実験ができれば、という状況ですね。

 振り返ると、企業を含め多くの方の協力があり色々な経験もさせていただきました。患者さんの臨床データも地上実験として生かされています。ですからこの研究の成果は患者さんにも還元していきたい。薬事法の承認を取り、医療機器として病院で使えるようにしたいと思っています。

 今思うと、患者さんを診る時とJAXAに行った時の緊張感は同じだったような気がします。

特色のある「久留米大学整形外科」に

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「若い人が頑張ってくれている」「みんな一生懸命だから評判がいい」...。うれしそうに教室スタッフの話をする志波直人教授。

 リハビリはかなりの覚悟で行なっていたのですが、2012年に整形外科の主任教授になりました。外科医として、私が考える理想は、手術の腕があるスーパードクター。自分はそういうキャラクターではありません。

 でも、自分にできることは何かと考え、「久留米大学にいろいろな人に来ていただける特色のあることをしたい」と思ったんです。基礎的なことがきちんとできるようにと考え、各グループに力を入れています。また4月からは大学病院の内容も大きく変えるつもりです。

 大学病院は特定機能病院、がん拠点病院、高度救命救急、それらを満たす必要があります。

 まず高度救命で考えると外傷・多発外傷です。今年の1月1日付で白濱正博先生を骨折外傷担当教授にしました。彼は、ばらばらになった骨盤骨折の手術を得意とする、日本を代表する骨盤外科医です。

 次に脊椎脊髄。患者さんが多い分野です。前任の永田見生先生(現久留米大学学長)からの流れで、優秀な人たちがいますから、佐藤公昭准教授を中心に頑張ってくれています。

 もう一つはがん拠点病院ですよね。骨・軟部腫瘍は准教授の平岡弘二先生が軸になって、難易度の高い症例に立ち向かってくれています。

 分院の久留米大学医療センターは、整形外科・関節外科センターとリウマチ・膠原病センター、リハビリテーション科があり、股関節とひざ関節の人工関節置換術症例数は福岡県内でトップクラスです。それを核に、肩、ひじ、股関節、ひざ、足といった関節すべてに力を入れていきます。

 それから、スポーツ整形です。全日本ラグビーに帯同したり、プロの選手にも来ていただけるようになりました。

 こちらは、現病院長の樋口富士男教授、股関節の大川孝浩准教授、肩関節の後藤昌史准教授、リハビリの名護健講師が中心となり、スポーツ整形の副島崇講師の協力の下、診療をします。

 医療センターは敷地が広く、回復期病棟もあります。予防から急性期、リハビリまでしっかりできるんですね。他ではできない特殊なことをしたいと思っています。

 大学病院が今まで以上に医療の高度な部分を担い、医療センターは福岡都市圏からも来ていただけるような特色ある施設に、というのが目標です。

久留米から、世界に羽ばたけ!

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 教育にも力を入れています。うちの教室の入局者は、地方の大学としては多いと思います。若いスタッフが一生懸命やってくれているから、入ってきてくれるんですね。

 人間が人間らしく生きていくためには、高齢化社会で増える一方の運動器の問題をいかにマネジメントするかが大切です。また、それだけではなく、スポーツへの対応も必要です。

 忙しくて大変な科ですが、ベーシックな予防、治療、手術、リハビリ...ひと通りできるので、おもしろいと思います。また大学院で学びたいという希望を持っている人は、優先的に行ってもらう配慮もしています。

 2013年からは大学病院の副病院長をさせてもらうなど、最近、私もいろいろな役職をいただいています。なかなか、身動きが取れなくなってきているんです。

 そんな中、JAXAやNASAの関係の仕事は、リハビリ部門の松瀬博夫講師がしてくれています。英語のプロトコル(実験手順や条件など)もかなり書けるようになり、今度、留学に行くアメリカに出した研究計画書が、アメリカの学会から助成をもらうことになったんです。うれしかったですね。

 私は、これまでたくさんの経験をさせてもらってきました。今度は、自分がこれまでやってきたこと、経験してきたことを、次の世代にうまく渡していけたらと思います。それをやらないと、間に合わないですから。そして久留米からインターナショナルな活躍ができる人材をどんどん輩出していきたいと考えています。

 整形外科としてはこういうことができる、と提案して、久留米大学全体を盛り上げていきたいと思っています。


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