ペンネーム グラハム
私の友人に、3浪して医大に入り、現在外科医をしている男がいる。
彼には、中・高生時代に寄宿舎で「医歯薬進学」なる雑誌をタマに見せてもらっていた。その影響を受けて、医学部進学を考えた時期もあった。考えただけに終わったが。
彼は、そろばん一級を持っていて、それだからかどうかはわからないが、数学は抜群であった。しかし、数学だけでは医学部に入れない。
私は、彼とは、よく遊んだ。言い換えれば、勉強の邪魔をしに、寄宿舎の彼の部屋へ遊びに行っていたようなものである。そんな私に、彼は、お茶を入れてくれたりして、なかなか気を使うのである。他にも、ココでは書きにくい事を一緒にやったりしながら、いつの間にか高3になっていた。
受験である。
私は、自分の成績で入れる学部や大学を目を皿のようにして探し、なんとか現役で合格した。ある意味で、入試テクニックであったと思う。
脳天気な私は、将来"何の仕事をしたい"とか"何になりたい"というのが無かった。とりあえず男なら理系と勝手な事を言い、変に納得していた。そこから先は、大学に入って考えれば良いと。
しかし、彼は違った。
私の回りには、なんとブラックジャックという漫画の影響を受けて医者になった人間が多いことか、と思うことがある。彼もその一人で、何がなんでも外科医になることを望んでいた。
卒業してから、しばらくして、彼が3浪して医大に進んだ事を知った。
まだ諦めてなかったのか。その時私の気持ちの中に、「私の妨害にあい、一緒に遊んでいたから、彼は3浪という苦労をしたのではなかろうか」と心痛が生まれた。
いや、私のせいではない。彼の実力だ。この葛藤が私に長い間心痛を与えることになる。でも、医学部に入ったのだから、結果良ければ全て良しとしようと何度も自分に言い聞かせたものである。
実は、数年前にプチ同窓会が岡山で開かれ、彼が参加すると知った。私は、広島から駆けつけた。とりあえず、彼にお詫びを言いたかったのである。
30年振りにあった彼に、「わしと一緒に遊びばぁしょったけぇ、3浪もしたんじゃろ。すまんかったのぉ」と伝えたところ、「そがぁなことはないよ。あの頃は面白かったのぉ」と返ってきた。
心につかえていた刺がとれた気がした。
彼は外科医になり、医者の奥さんも居て、子供達と一緒に生活している。
誠に勝手ながら、万事よし、とさせてもらおうと思っている今日このごろなのである。