医療法人社団 和恒会 理事長 織田 一衛 /
ふたば病院長 髙見 浩 / 認知症疾患医療センター長 西山 聡
和恒会は「ふたば病院」をはじめ数多くの施設・サービスを運営する医療法人社団。今年1月、織田一衛理事長の兼任だったふたば病院院長に髙見浩氏が就任。また髙見新院長がそれまで務めていた認知症疾患医療センター長には西山聡氏が就いた。
高齢社会、ストレス社会で求められている役割、そしてやりがいは。3人に話を聞いた。
―和恒会の理念は。
織田理事長(以下、理事長)
医療法人社団和恒会は、「この街をだれもがほっとする街に」という理念の下、この呉市広地区を「広ほっとタウン」と称し、心の病を抱える方の医療や介護、地域での生活を支える施設を拡充してきました。法人の中核となるのが「ふたば病院」です。認知症医療センターはふたば病院内の機能のひとつで、県の委託事業となります。
―就任されたお2人の抱負を聞かせてください。
髙見院長(以下、院長)
今までと大きく変わったことをしようということではありません。まずは地域から求められている当院の役割をもう一度見つめ直し、従来通りの機能を果たしていきたいと思います。
これからますます高齢社会となり、2025年には700万人超の認知症の方を抱えると言われています。そのような社会に向けて、当院が何ができるか考えていかなければと思っています。
具体的に言うと、一つは認知症の方への地域ケアシステムを構築していくこと。もう一つは精神障害、統合失調症の方が主ですが、入院治療中心の時代から、地域で暮らしていただく時代になってきていますので、そのお手伝いをすること。その2つを目指していこうと考えています。
入院が増え、その過半数は認知症の方が占めています。認知症というだけで入院になるのでなく、情動不安定、つまり徘徊したり、興奮されたり、中には幻覚妄想が出てやむなく、という方も中にはいらっしゃいます。
当院では薬物療法も行いますが、それだけではなくリハビリテーション、他の方とレクリエーションしたり、思い出話をしたりして、その方に残る健康な部分を取り戻すということも行っています。
一方、外来では可能な限り在宅で継続できるように、薬物療法、ご家族へのサポートをしています。通院、デイケアだけでなく、地域で使えるような社会資源や制度を知っていただくこと、やむを得ず入院になった方でも、入院治療は必要最小限にして、在宅に戻れるような援助を心がけています。戻れない方については、病院がすべてを抱えるのではなく、老人保健施設や高齢者複合施設を提供するなどして地域で支える形が理想ではないかと考えています。
西山センター長(以下、センター長)
認知症疾患医療センターは県の委託事業で、その役割の一つでもある「連携」が、まずは大きな柱だと思っています。
連携と言っても、医療機関同士、介護と福祉、家族や地域と、といろいろあります。それぞれの連携がとりやすい状況をまずつくり上げなければと思います。
医療センターですので当然、医療の提供が求められます。高度専門医療が必要な場合は難しくても、例えば認知症の方が軽い肺炎になられた場合などには、当院で対応する方法もあります。高齢の方が病気で入院することになっても、その新しい環境になじむのが難しい場合もあると思いますので、認知症の病院らしく細かい配慮をしていけたらいいと思います。
逆に、認知症がある方が内科に行こうか当院に来ようか迷われて、当院を選ばれた場合には、きちんと対応できるようでありたいと思います。そのためには、われわれもさらにスキルを上げていかなければなりません。
精神科医が心で勝負できる時代
―精神科医としてやりがいや喜びを感じる時は。
理事長 僕が医師になった30数年前は、精神科の病院に入院されている患者さんを他の科の先生は積極的には診ない時代でした。
大学4年生の時、10人ほどで賀茂精神医療センターへ臨床実習に行きました。みんなでお弁当を食べていたら入院患者さんが話しかけてきたんです。でも、当時は精神科の患者さんが怖いというか、どう接していいかわからない状況で、気付いたら、僕の友達1人だけが仲良く話をしていました。僕は黙ってそばに立っていただけ。残りの8人はいつの間にかいなくなってたんです。
「こんなに医者になる人間がいるのに、精神科の患者さんが来たらみんな逃げてしまった。こういう人たちはきっと困っているだろう」と思いました。そして、こういう人たちが風邪をひいた時に風邪薬を出せる医者になろうと精神科医になりました。
精神科医になっても偏見を感じることは多々ありました。僕が診ている患者さんが骨折してもなかなか外科医に診てもらえない。診てくれ、と同級生とけんかしないといけない。そんな時代でした。
今は地域連携がうまくいっていて、すっと診てくださいます。精神科の患者さんに正面から向き合って、地域に移行していかれます。本来の精神科医の「心と心」というところで勝負できる時代になったと大変うれしいですね。
以前は徘徊する患者さんなどはきつい薬で動けなくすることがメインでした。今は作業療法士、臨床心理士、精神保健福祉士といった共同チームで「鎮静なき治療」が主です。思わぬいい時に精神科医になれたかなと思います。
院長 精神科の病気といっても、病気はその人の一部で、ほとんどの部分は健康です。症状の緩和と同時に、健康な部分にできるだけ働きかけることが必要だと思っているんですね。精神障害の場合は、不幸にも長期になったり、慢性的なものが多くて元通りまでは至らない方も多いですが、社会復帰される方がいらっしゃると、よかったなあと思えます。
私が医師になった20数年前は、まだまだ精神障害の方に対する偏見は大きく、一般の方だけでなく、他科の先生からもありました。そういった偏見や垣根が昔に比べてかなり減ってきています。身体合併症などの治療をお願いしても、比較的診ていただきやすくなっていますので、そういう部分もやっていてよかったと思えるところです。
センター長 精神障害の方は、社会で当たりまえのように言われている、学校に行って、結婚して、子供を産んで...というのがなかなか難しいのが現状です。ですから当たり前のことが、当たり前にできるのがうれしいですね。患者さんから結婚の報告を受けた時、本当にうれしかったです。