会長 永廣 信治( 徳島大学大学院脳神経外科学分野)
3月6日と7日の2日間、徳島市のあわぎんホールで第38回日本脳神経外傷学会が開催される。会長は、徳島大学の永廣信治教授で、500人ほどの参加者を見込んでいる。永廣教授に見どころを聞いた。
教授室には、第34回全日本医師柔道優勝大会六十歳代前期の部で永廣会長が優勝した時の表彰状が飾られている。「文武両道」は学生などを指導する時の方針の一つ。学生時代徳島大学医学部の柔道部とはライバル関係にあり、県内には柔道を通じて知った医師が何人もいるという。
脳神経外科の医師だけでなく、救急医の参加も多い学会です。今回は特にスポーツに関する外傷や、脊椎・脊髄損傷を大きく扱いますので、整形外科やリハビリなど多くの領域の先生に参加していただきたいと考えています。徳島大学からも、リハビリテーション部の加藤真介教授などに発表していただく予定です。脳神経の外傷に関わる全ての診療科の医師が、一緒に考えられる場にしたいと思っています。
特別講演は、スポーツ頭部外傷の権威であるメルボルン大学神経内科のポール・マクロリー教授と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校脳神経外科のジェフリー・マンレイ教授にお願いしています。
マクロリー教授は著名な神経学者で、世界スポーツ脳振盪会議の代表です。スポーツにおける脳振盪の予防や、起こした場合の競技復帰の手順などについて講演いただきます。
マンレイ教授は脳外傷・脊髄外傷を専門とする医師の育成に熱心な方です。世界中を飛び回り、学会で最新のガイドラインを教えている先生で、今回もスポーツ外傷だけでなく、一般外傷や戦争での外傷など、多くのテーマで話してもらえると思います。
どちらも国際的な第一人者ですから、私も楽しみにしています。
会長講演は、「柔道の重大な頭部事故は0にできるか」というタイトルでお話しいたします。
私は柔道の名門である熊本市立藤園中学校に入学し、以後熱心に柔道に取り組みました。学生時代から多くの試合を経験し、全国の柔道家と交流があります。以前対戦した全日本柔道連盟医科学委員会の医師が、柔道家である私が脳神経外科の教授だということを知っていて、連盟の安全指導プロジェクト特別委員会委員に推薦してくれました。2010年から解析を始め、2011年から柔道指導者に、安全指導の受講を義務付けました。重大な事故は初心者に多いので、どういう練習をすれば良いかという指導方法を研究し、啓発をしています。
中学の柔道部でキャプテンをしていた時、後輩が練習中の事故で脳に後遺症が残りました。記憶をたどれば、今防止策を研究している、急性硬膜下血腫の事故と類似していたように思います。私は後輩のような事故を未然に防ぐ方法はあると思い、3年間活動してきました。死亡事故が年間3件ほど発生していたのが、今は0です。まだ3年ですが、対策をとれば重大事故は防げるという確信を持っています。重大事故自体を0にしたいと考えています。
ポスターには柔道、鳴門の渦潮、朝日の写真が使われている。柔道の写真は、熊本大学の医学生時代に熊本県代表だった永廣会長が、鹿児島県の代表を試合で投げているところ。会長は「時には積極的でアグレッシブな手術を行い、時には粘り強い守りの管理が必要」と言う。それを攻防にたとえた表現が、いかにも武道家らしい。
柔道関連で言えば、学会では、東海大学副学長でロサンゼルスオリンピック金メダリストの柔道家、山下泰裕氏に「夢への挑戦」のタイトルで講演していただきます。山下氏は私の中学時代の6つ後輩でもあります。競技者の事故に、非常に心痛めていることを知っているので、講演をお願いしました。この講演も、今回の目玉の一つです。
柔道やスポーツに関する話題以外に、高齢者の転倒予防や治療は、今回扱う大事なテーマの一つです。
また私は、高次脳機能障害の方の社会復帰にも携わってきたので、それも大きなテーマの一つにしました。
シンポジウムとしてはほかに「脊髄損傷、病態と再生医療」、「重症頭部外傷の病態と急性期管理」、「小児の脳神経外傷」、「急性硬膜下血腫の病態と治療」、「再発・難治慢性硬膜下血腫」、「神経損傷の基礎研究最前線」などを取り上げます。幅広い内容で、多くのことに興味がある人は、どれを聞こうか悩むかも知れません。どれも素晴らしいシンポジウムになりそうだと、予感しています。地方で開催するから参加人数が少なかったというのは不本意ですから、多くの人が興味を持てるようにしました。是非たくさんの人に集まってもらい、議論や交流をしてほしいと考えています。
例年は150演題ほどですが、今回は応募が多く、250題を採択しました。どれも興味深く、是非採用したいと思ったものばかりでした。
今年の6月の12・13日に徳島市のホテルクレメント徳島で開催する、第2回日本心血管脳卒中学会学術集会と同時進行で準備を進めています。医局員が頑張ってくれているので、どちらも面白いものが開催できそうです。
こちらの学会は、徳島大学循環器内科の佐田政隆教授が副会長です。佐田教授は東京大学を卒業されていますが、高校は熊本で、私の柔道部の後輩でもあるんですよ。