社会生活の中で治療される時代になればいい

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医療法人社団 更生会 草津病院 副理事長/院長 佐藤 悟朗

■経歴 1969 広島県生まれ 1994 福岡大学医学部卒業後、広島大学病院精神科入局 1996 慶応義塾大学病院精神科入局 1997(医財)青渓会 駒木野病院 1998(医社)更生会草津病院 1999 精神保健指定医 2004 同病院副院長 2008 同病院院長 ■所属学会 日本精神神経学会(指導医、専門医) 日本精神科救急学会 日本統合失調症学会 日本うつ病学会 日本生物学的精神医学会 日本産業精神保健学会 日本医師会産業医

―読者に訴えたいことは。

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 ずっと思っていることですが、医療はあくまでも人生の生活体験のごく一部であるべきです。しかしながら精神疾患はほとんどが慢性疾患で、たとえば統合失調症は20歳前後で発症し、80歳の平均寿命まで60年間は病気や障害を持ち続け生活への障害に大きくかかわる疾患です。

 そのため、今までは本来人生の生活体験の一部であるはずの治療や障害支援などが人生体験の中で大きく占められるようになりがちでした。これまでの精神疾患の治療においては、患者さんの仕事をしたいとか結婚したいという気持ちや行動は、疾病の再燃につながるとされて止められたり、長期入院であったり、自宅への引きこもり、社会復帰とはせいぜいデイケアや障害者施設での就労という考えが中心でした。

 これからの精神科医療は、患者さんが「自分はこうありたい」との思いが一番大切で、その中の一部に治療が組み込まれる必要があります。20歳前後の患者さんであれば、同級生と同じように学校に行きたいとか、卒業したら仕事をして家庭を持ちたいとか、それをかなえてあげるための治療でなければならないと思うんですよ。

 その上で今の医療を考えると、「社会が精神障害のことを知ってあげましょう。精神疾患は特別な病気じゃないですよ」などと啓蒙活動でよく言われ、社会が精神障害者を受け入れることが強調されていますが、それだけではだめだと思うんです。

―それは受け入れる社会体制の弱さのことですか。

 いえ、私が患者さんにきびしい目を持ち過ぎているのかも知れませんが、社会の認識を変えるとか、受け入れてくれない社会が悪いというような考えではありません。社会に疾病を知ってもらう必要はあるにしても、患者さんの側も責任を持った一社会人として認められるような努力が必要で、自分は障害者だからそれを社会が受け入れてくれないのはおかしい、というのは違うと思います。患者さんが障害者の気持ちのまま社会にもどることでは、結果的に社会との溝は埋まらないのです。患者さんの側も社会の厳しさを受け入れていかないといけない。その患者さんの背中を押してあげるのは精神科の医療従事者しかできないと思います。その先に、患者さんが辛くても社会の中で一人前に仕事をして、家庭を持って、自分の成長感を感じながら他の人と分け隔てなく生活できるレベルを目指すべきではないでしょうか。

 またたとえ、障害のためにできないことがあっても、患者さん自身は社会適応しようと努力する姿勢が大切で、その気持ちを一緒に育てていくことも医療従事者としての大切な役割です。そして、お互いに納得した上での関係が作れることが、本当のノーマライゼーションだろうと思います。

 これまでの精神医療は、医療従事者側の支援にも問題がありました。患者さんの将来について、あなたは病気や障害があるからここまでしか出来ないと決めつけていた面がありました。でもこれからは、やりたいことがある人には、それに挑戦してもらえばいい。患者さんが挑戦して失敗した時や病状悪化時の受け皿を作っておくことも精神科医療では必要なのです。それでうまくいかなければ、その理由を患者さん自身が中心になって考える。そしてそこから先の人生の歩み方を本人が決めたらいい。医療従事者が病状悪化や相談事のフォローをしてあげながら、少し背中を押して、社会復帰の機会をつくってあげることが当院のあるべき姿だろうと思います。実際、このスタンスで支援した方が、患者さんが自分の行動に責任を持つようになり、疾病の再燃率も低下し、また患者さんを支援してくれているご家族の辛さも患者さん自身が理解できるようになって家族関係が良くなります。病気や障害の面だけでなく、人としての成長を支援するような精神科医療ができればいいですね。

―そう思うに至った背景はありますか。

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草津病院はJR新井口駅から徒歩でおよそ5 分くらいのところにある。

 私がなぜそう感じるようになったかというと、幼少期の体験に基づいています。家が病院で、忙しくてあまりかまってもらえなかったので、私は患者さんにお手玉や卓球をして遊んでもらいながら成長しました。その時に私に見せる患者さんの顔は普通の人で、病気のことなど一切出てきませんでした。なんで、このような人たちが入院しているのだろうとよく感じました。しかし、今、医師の私に見せる患者さんは、病気の側面が中心になっています。実は患者さんには医療従事者に見せる顔以外にとても健康的な面がある。それが、社会生活を送るうえで大切な側面なんです。

 一人の人間として同年代の健康な人と同じように普通に暮らしたいのは誰も同じです。今まで全く仕事ができなかった人が働けるようになり、たとえ収入は少なくても一人暮らしができるようになると自立心が芽生え、自負心が出てきて自己管理ができるようになります。そうすると、今まで親のせいで病気になったと思っていた人たちに親の苦労がわかり、社会の事情もわかって問題行動もなくなり、さらに自分の病気を気づかうようになりますから再発しなくなるんです。病院の中での治療だけでなく、社会生活の中で治療される。社会構造自体が患者さんの治療構造になれば、医療費を減らせるし、家族も罪悪感にとらわれなくてすみます。

 最後に今、以前の精神科医療は、患者さんを精神科病院に閉じ込めていたと批判されています。しかし、そのもっと前の患者さんは、地域で放置されていたり、虐待を受けていた。先人たちはその患者さんを病院で守ってあげないといけないという意味で医療を行なっていたわけです。そして私の時代は、地域で一社会人としての責任も負いつつ、でも自由に選択して生きる権利も持ちながら、周囲の人からも普通の近所の人として認められる時代がつくれたらと思います。また、次の世代には私の時代の医療の先を行く発想を持った医療を期待したい。

 患者さんが精神的に成長して家に帰り、家族関係が良くなっていくのを見ると、医療者とは違う感情として、この仕事に就いてよかったなと思いますね。


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