社会医療法人 定和会/社会福祉法人 啓喜会 理事長 神原 浩
地域包括ケアシステムで国は、高齢者が自宅や地域の施設で暮らせるよう、必要な医療・介護・予防・支援などのサービスを受けられるための体制づくりを急いでいる。団塊の世代が後期高齢者になる2025年に向けて、認知症や慢性疾患を抱えても地域で暮らせる仕組みが求められており、介護老人福祉施設よりも自由なかたちで必要なサービスを提供できるサービス付き高齢者向け住宅に今後の期待が寄せられている。広島県福山市の神原病院を訪ね、確実に今後のモデルになるであろうサービス付き高齢者向け住宅「桜」を見てきた。
―神原病院は100年以上の歴史があるそうですね。
週二回、昼食にそばとうどんを打つ神原浩理事長。海と山をこよなく愛し、セラピー犬3姉妹はどこへ行くにも一緒。病院の広報誌「灯り」では、今は亡き黒猫「くう」を主人公に古代ファンタジー小説を連載している。趣味はハーレーとGTR、キャンピングカーでアウトドアの旅。
曽祖父にあたる、神原曽我一(そがいち)が明治43年に沼隈郡水呑村に開業したのが始まりです。祖父の神原定(さだむ)がこの赤坂村に診療所が必要だと頼まれて開設したのが昭和13年。105年の病院史のなかで私たちにはさまざまな引き出しがあります。
現在、よく言われる「介護」「急性期」「慢性期」などの言葉は、もともと我々医療従事者が作った言葉ではありません。「ゆりかごから墓場まで」という福祉政策のスローガンがありましたが、私が高齢者施設をやるのならそれをやろうと決めています。経験したことのない超高齢化社会がこれからやってくることはみんな知っているし、問題点もみんなわかって指摘する。しかし誰も、どうしたらいいかわからない。
そのような中で、思いがけず、近隣地域の医療介護のために使ってほしいという強い願いでヤクルトから約5600坪もの土地を格安で譲り受けることになり、高齢者複合施設「桜」をスタートさせました。ここの目標は高齢者に必要な全てがそろう施設になることです。この建設工事によって、100周年記念として病院の建て替えを計画していましたが、そちらを延期せざるを得なくなりました。結果的にはこの順番で良かったと思っています。
―実際に見ましたが、ちょっとびっくりするような空間です。
すごいでしょう? 自分のチャレンジを見ていただくための場所にしたかったんです。先ほども言ったように今から先、高齢化社会で、みんなどうしたらいいかわからない、でも俺はこれをやるよ、これが神原病院のチャレンジですよ、という姿勢を見に来てほしいんです。それを人がどう思うか知りたいし、笑顔の空間、お年寄りに元気をだしてもらうために「桜」のやり方はこれだ、と言い切れるような施設にしたつもりです。
私たちにとって当たり前の、毎日の生活のリズムが高齢者にはきついんです。朝起きて、顔を洗って、歯を磨いて、おしゃれしてというのが。お年寄りに気力を出してもらうにはどうするか考えました。お年寄りにとっての遊園地のような感覚、ハレの空間として家族が集まる場所にしたかった、おしゃれして来ないと恥ずかしくて来れないような場所にしたかった。ついこの前もオーケストラを呼んで演奏会をやりました。ここなら家族が会いに来ます。家族が行ってみたいという気持ちになる場所にしたかった。入居者・利用者様は私たちがいくら何を言ってもだめ。家族の言葉で力がでる。それを長年見てきました。お孫さんが一言「がんばって」と言えば、がんばるんですよ。
―名前の通り桜の木がいっぱいですね。
自然のなかで生きることをしなくなれば人は滅びます。神原病院は祖父が当時無医村だったこの赤坂村に、内科、小児科、産婦人科の診療所を開設して始まりましたが、山と土地をもらったんです。
今では山に患者さんが植えた桜が300本になっています。遊歩道もつくりました。毎年FM福山の桜の実況放送はここから放送するほどの、知る人ぞ知る隠れ名所です。「桜」にはその桜を移植しました。今度はNHKの撮影隊が桜中継にやって来るようになりました。
ここには県外から入所される方もいらっしゃいます。満開の桜は感動しますよ。ぜひ見に来てください。