岡山大学病院長/岡山大学理事 槇野 博史
知識の向上および普及を目的とした教育講演会として、2015年2月20日( 金) と21日( 土) の2日間にわたり、第49回「糖尿病学の進歩」がホテルグランヴィア岡山、岡山コンベンションセンター、岡山シティミュージアム、岡山全日空ホテルの4会場で開催される。世話人である岡山大学病院長の槇野博史氏を訪ねた。
Q.ここ最近の糖尿病学について。
今治療が最も進んでいる分野が、実は糖尿病の分野です。新しいタイプの薬が次々に出ています。インクレチン関連薬という全く新しい薬が出てきて治療の選択肢が増え、治療が大幅に変わってきています。
インクレチンは消化管ホルモンで、その一つがGLP1です。GLP1はインスリン分泌促進作用や、すい臓以外への作用により血糖を降下させます。しかしインクレチンは血中で速やかにDPP4という酵素で分解されるため、DPP4阻害薬が開発されました。GLP1製剤やDPP4阻害薬をインクレチン関連薬と言い、糖尿病の治療に有効です。
通常の学会では最先端の研究を発表する目的が主ですが、「糖尿病学の進歩」は最新の知識のシェアと教育が目的です。糖尿病は特に専門医になった後も、知識のアップデートと整理が大切で、医師だけで糖尿病診療は完結しません。重要なのは看護師、管理栄養士、薬剤師との連携です。
また、糖尿病の治療には患者さんの自己管理がもっとも大切です。
糖尿病とその療養指導に関する幅広い専門知識をもち、患者さんの生活を理解し、適切な自己管理がおこなえるよう援助する役割を持つ看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士に与えられる資格である糖尿病療養指導士も増えてきています。
今回「糖尿病学の進歩」では、糖尿病専門医のための指定講演、糖尿病基礎研究の知識、糖尿病診療のための知識、療養指導に必要な知識の4つの柱でプログラムを構成しています。基本的には聴講ですが、参加型プログラムも準備しました。
また、医療スタッフだけでなく市民にもこの学会を還元したいという願いから、糖尿病の啓発のために、市民公開講座を二日目、2月21日(土)の午後2時から岡山コンベンションセンターにて企画しています。
晴れの国岡山と瀬戸内の海の幸を楽しんでいただき、今後のチーム医療に生かしていただければ幸いです。
Q.専門は腎臓ですが、糖尿病に興味を持たれたきっかけなどを。
ネフローゼ症候群という、たんぱく尿がたくさん出てむくむ病気があるのです。その原因の一つに糖尿病があります。しかし高血糖でなぜ腎臓が障害され、たんぱく尿がたくさん出るのか、その機序がわからず、糖尿病に興味を持ちました。なぜネフローゼになるのかわからなかったので研究し始めたのがきっかけです。
私が研究し始めたころは、患者さんがまだ少なかったのですが、合併症が増えて糖尿病による透析が増えています。
Q.総合診療棟の工事について。
現在は二期工事期間に入っています。一期ではハイブリッド手術室、IVRセンターを完成させました。南側に建つ病棟はすでに新しくなって稼働しています。
それ以外の中央診療部門である放射線部、検査部、リハビリテーション部、輸血部、血液浄化療法部などを現在の第二期工事で整えています。全てが完了するのは平成28年の予定です。 岡山大学病院の理念は「高度な医療をやさしく提供し、優れた医療人を育てる」です。大学病院は新しい医療を創造していかなければなりません。
大学病院には移植手術などの最先端医療、地域医療の下支えなど「最後の砦」としての役割もあり,かかる期待は大きいです。昨年岡山大学病院はたいへんありがたいことに全国に15拠点ある臨床研究中核病院のひとつに選定されました。
基礎的な研究の種を臨床に活用する場所として、薬が実際に使えるようにするのが臨床研究です。臨床研究をするには数多くの症例が必要ですから、中四国の200床以上の83病院で3万3千床の「メガホスピタル」ネットワークを構築し、臨床研究を大規模かつ迅速に展開していく考えです。中国四国の大学と連携しながらこのネットワークを円滑に維持していくことで、中四国地方の臨床研究の拠点として基礎研究を育成して臨床までつながるように新たな医療モデルの実現に力を注いでいます。
ただ診療するにとどまらず新薬を生み出す、新しい医療機器を生み出せるような臨床研究の場となることを岡山大学病院はこれからも目指していきます。