会長の佐々木裕・熊本大学教授が語る「特徴」は
第51回日本肝臓学会総会が今年5月、熊本市内で開かれる。同学会総会が熊本県内で開かれるのはこれが初めて。会長である熊本大学大学院生命科学研究部消化器内科学の佐々木裕教授に見どころを聞いた。
―今回のテーマとそれに込められた願いは。
昨年がちょうど50回目の総会で、それまでの肝臓学や肝臓病学が総括され、半世紀の区切りがつきました。今後はC型肝炎などの治療が進歩してきたことで肝臓の疾病構造が変わっていくことが予想されます。また生活習慣が原因で肝疾患になるケースが目立ってきていますので、研究の対象も診療の対象も変わっていくだろうと思われます。
新たなスタートとなる51回目では、これからの10年、20年を考えていこうということで、「肝臓学のevolution―より広く、より深く―」というテーマを設定しました。
―特徴を教えてください。
視野を広げるということで、他分野の先生方にもご講演いただくのが一つの特徴です。また生活習慣、とりわけアルコールを前面に取り上げるのは久しぶりだと思います。
特別講演は4人の先生方にお願いしています。アメリカからは肝臓学の研究で有名なWANDS先生とSZABO先生のお2人をお招きし、アルコールや生活習慣による肝疾患について、それに関する免疫の関与も含めてお話しいただきます。国立がん研究センターの牛島俊和先生には、発癌メカニズムの基礎的な内容のご講演をお願いしています。また理化学研究所の大野博司先生は、最近注目されている腸内細菌研究の第一人者です。肝臓は腸との関連が深い臓器です。少し分野の違うお話ですが、今後の研究や診療のテーマの参考にしていただければと思っています。
これからさらに重要になると思われる「癌」に関係する主題演題が多いのも特徴の一つですね。
また、若い先生方には、基礎だろうが臨床だろうが、研究でじっくりものを考えるということをしてほしいので、教養講座を用意しました。その一つは医学に関する統計学の講座です。臨床研究に大切な統計について、きちんと学ぶ必要があると思います。もう一つは海外の先生による英語の論文の書き方講座。英文の書き方だけでなく、剽窃、いわゆるコピペをやってはいけないという倫理的なことも学んでいただこうと企画しました。
さらに学会が終わった2日目の夕方に、サテライトを設けました。世界的にもご活躍の先生方に研究の苦労談やおもしろみを語っていただきます。最近の若い医師は臨床にとても興味があり、それはすごく大事なことです。でも研究をすると医療を側面から見ることができますし、気が付かなかったことにも気付いたりできるのです。だからこそ若い先生に研究の醍醐味を伝え、肝臓の研究に進んでいってもらいたいと思っています。そして日本から世界に情報を発信できる人材が、1人でも多く育っていくきっかけにしたいと願っています。
―新しい試みは。
会期:5月21 日(木)・22 日(金)会場:ホテル日航熊本・熊本ホテルキャッスル・鶴屋ホール・くまもと県民交流館パレア
▽特別講演
・Role of insulin resistance in the pathog enesis of alcoholic liver disease/演者 Jack R. WANDS(Liver Research Center, Brown Medical School, USA)
・Therapeutic targeting of metabolic and microbial danger signals in alcoholic liv er disease-Implications to human disea se /演者Gyongyi SZABO(University of Massachusetts Medical School, USA)
・がん多発と発がんの素地/演者 牛島 俊和( 国立がん研究センター)
・オミクスで読み解く腸エコシステム の生理的・病理的意義/演者 大野 博司( 理化学研究所統合生命医科学研究センター)
今回の学会は徒歩で5分圏内とはいえ会場が4か所に分散され少し不便です。また学会では自分の聞きたい複数の演題の時間帯が重なっていて、片方しか聞けないということもよくあります。
そこでインターネットを活用したe学会を考えています。学会に参加された先生方は、見逃した主題演題や協賛セミナーを会期中にネット上で見ることができます。うまくいけば、それをフレームワークにして来年以降の総会にも生かしてもらおうと思っています。
特別企画「ポジティブ・アクションの必要性と推進」は、男女共同参画への理解を深めてもらうことが目的です。講演などのないお昼の時間にお城の見える見晴らしのいい部屋でランチとデザートを楽しみながら、フランクな雰囲気で行ないたいと思います。他学会の取り組みもご紹介いただく予定です。
また超音波ハンズオンセミナーも初めて開催します。機器が進歩していますが、専門家から検査の手技を直接教わる、あるいはブラッシュアップする機会が少ないために企画しました。健康な被験者を対象に、グループごとに実技をし、それを指導する先生がチェックします。勤務医や開業医の先生方に喜んでいただけるでしょうし、臨床、とくに肝がんの早期発見に役立つと思います。
―PRをお願いします。
今回は、日本の肝臓学の方向性を参加された先生方と一緒に考えていく総会にしたいと思っています。プログラムが多岐にわたるのは、それぞれ先生方の興味が違うからです。ニーズに合った情報を収集していただきたいですし、Webを使って今まで興味のなかったものについても知っていただければと思います。会期は2日間と短いですが、より多くの情報を集めて、これからの肝臓学が進むべき道を、皆さんがそれぞれ色々な側面から考えていただければと思います。
この時期は熊本の小学校の運動会シーズンなので、統計的に雨が少ないのではと思います。ポスターの写真はその頃の阿蘇です。学会後のお楽しみで阿蘇や天草にも足を運んでいただくのもいいのではないでしょうか。