九州大学 総長 久保 千春
昨年10月1日から九州大学総長に久保千春前九州大学病院長が就任した。任期は平成32年(2020)9月30日までの6年間。伊都キャンパスの椎木講堂に久保総長を訪ね、思いや今後について聞いた。
―有川前総長から引き継いだものと、新総長としての思いを聞かせてください。
1911年に創設された九州大学は、創立100年に際し、今後の指針となる100年メッセージを作りました。それを基本として、総長になるにあたって私なりに5つのビジョンを掲げました。
まず、引き続き、世界的な教育・研究・診療の拠点になることを推し進めていくこと。次に、充実したキャンパスづくり、特に箱崎から伊都への迅速なキャンパス移転です。これまで10年ほどかけて順調に進んでおり、あと4年ほどでの完了を目指しています。
3つ目にはグローバル人材の育成があります。これをいっそう充実させたい。そのために、留学生と日本人学生が混住する「伊都協奏館」と「ドミトリーⅢ」が昨年8月に完成し、既設のドミトリーⅠ、Ⅱと合わせると、最大で1301人の多国籍の学生がいっしょに暮らして切磋琢磨する環境が生まれました。そして4つ目に、新しい医療も含めたイノベーションの創出・研究力の強化があります。さらに5つ目が、社会と共に発展する大学。社会のいろんな分野との連携や、産官学の連携があります。これらを前総長から引き継ぎ、さらに充実発展させます。九州大学としてどれもやるべきことで、手順や方法に私なりのやり方を出したいと思います。
私は九州大学の病院長を6年やってきました。その時いちばん大事にしたのが各部署との信頼関係でした。毎月2回は事務部長や看護部長と共に各部署を回り、また、それぞれの抱えている問題や目標の達成の度合いなどもヒアリングしました。
それと同じように、九州大学の取り組むべき問題や状況の把握を、対話の中で見つけて解決していきたいと思っています。大学病院にいた時と違って予算規模は3倍くらいあり、学生も大学院生を入れると1万8千人以上いますから、教職員や学生との対話も進めていきたい。学生が多いことは、楽しさと夢がありますね。
―福岡はアジアの玄関口とも言われます。
せっかく日本に来たのですから、学内だけでなく地域との交流は大事です。その意味では福岡は地の利があります。先日も中国から、遼寧省で大学を自分でつくられた卒業生の方が来られ、福岡や九州大学で学んだことがとてもためになったので、これからも交流を深めたいと言われていました。福岡の人の良さをよくわかってくれているようでした。
―いまの立場から見た日本の明日と可能性は。
これまでは患者さんを含めて医療関係者と会うことが多かったのですが、総長になると、会う人がかなり違ってきました。産官学連携ということもありますが、福岡県や福岡市、あるいは文部科学省の担当者、そして、いろんな産業界の人たちと会うことも非常に増えました。
お会いしてお話をしていると、総合大学である九州大学は、日本の政治、社会、経済面へも情報を発信していく必要があると感じています。
世界では急速な情報化や国際化が進む中、日本もそれに対応していく必要がありますが、日本では少子高齢化の進展などもあり、厳しい財政状況が続いています。大学においても、18歳人口の減少による大学全入時代とも言われる中、大学間の競争は激しさを増し、予算的にも厳しい状況が続いています。しかし、大学の大きな使命の一つは未来の社会を担っていく人材を育成することですので、しっかり対応していかなければならないと強く感じています。大学教育は時代と共に発展してきましたが、今後については社会経済や外交の問題などもあって楽観できません。そのなかで九州大学はどうあるべきか、どんな役割を果たすべきかを常に考える必要があると思います。
―少子化を見据えて九大生に何を望みますか。
国の制度面として、少子化に対する対策はもっと必要だろうと思います。私が九州大学の学生に望むのは、社会のリーダーになれる人材として育ってほしいということです。
今後の日本のあり方や、国際社会の中でどうすればいいかを、自分の専門分野や職業の中だけでなく、幅広い視野を持って、柔軟な考え方で自分の意見の言える人になってほしい。それがグローバルな人材ということになります。そのために、私が常々言っているのは「自分自身の主観を磨く」ということです。自分はどうあるべきか、何を今後すべきかと、自分に対する主観を磨き、それを客観的に判断する、そのバランスです。情報だけでなく自分と向き合うことも必要で、いろんな人との対話によって自分自身を知ることもできるし、古典など読書に親しむのも大切なことだと思います。