医療でまちづくりの一翼を担う

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愛媛県立今治病院 院長 藤田 学

■ふじた・まなぶ高知市出身。1982年愛媛大医学部卒。(財)積善会付属十全総合病院、愛媛大医学部付属病院、松末病院の後、1992年愛媛県立今治病院。2006 年同病院副院長、2010 年から同病院院長、愛媛大医学部臨床教授。日本脳神経外科学会指導医、日本脳神経血管内治療学会専門医、日本脳卒中学会専門医。

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 人口減少と高齢化という日本の行く末が厳しい中で、この地域の県民ニーズに根差した運営が大切です。地域完結型医療のビジョン、どういったスタンスで病院を運営していくのか、装備をどうしていくのか。また三次救急、高度な医療を要求されるものについては、ドクターヘリや高速道路がより整備される中で愛媛大など松山の病院との連携をいかに活用していくのか。身の丈に合った形を決めていく重要な時期に来ています。

 電子カルテを10月に導入しました。急性期病院として生き残るために、DPCは不可欠です。今はDPC準備病院ですが、対象病院となるためには電子カルテ化せざるを得ないということです。

 電子カルテには、良い面も悪い面もありますが、可視化して合理化していくということ、治療の標準化というメリットがありますね。ただ、うちの規模で年間1億円の経費がかかります。これを回収できる運営をしていくことが課題になります。

 オーダリングシステムと同時に入れるかどうかも迷いました。僕がアナログ人間で自信がなかったですし、他病院では業務になじめず辞めた看護師さんもいたと聞きましたので、人材を失うことを懸念したんです。しかし、どうせやるなら一気に、と決断し、IT関連に長けた人に実務を任せました。現在、導入から2か月経ちますが、うまく運用できています。

 4つある県立病院の中で電子カルテを入れたのはうちが2か所目です。同じメーカーのものを入れたので異動のある職員や若い看護師、それから研修医の負担は減らせると思います。クリティカルパスも共通にできたら、さらにメリットは大きいと思います。

 私は23年前に大学の人事でたまたまこちらの病院に赴任してきました。医師としてやる以上どこにいても同じですから、家族が後ろ指をさされることのないよう、院の内外で信頼される脳神経外科医を目指し、一生懸命にやってきました。

 そのうちに、良い脳神経外科にしようとすると、病院全体を良い病院にしないといけないことに気づき始めた訳です。脳神経外科を受診した患者さんも脳神経外科だけで治すわけではないのですから、各診療科の能力が高く、連携もうまくいかないと、脳神経外科の力も充分発揮できないとわかってきたんです。

 ちょうどそのころ副院長になって、病院機能評価受審の責任者になりました。院長の退官前に受審することが目標であり、期間が限られていたため、委員を選定し直し、受審日を決め、そこから逆算して準備を進めていきました。大変でしたが、なんとか職員全員が一丸となって予定どおりに宿題なしの一発合格を得ることができました。この時、自分の中に医師としての診療能力とは別の組織を動かす指導力が養われたように思います。

 公立病院は診療報酬の改定等医療の施策が時代によって変わっても病院の利益等に振り回されず、比較的安定した病院運営を行える点が一つの特徴と言えます。その中で民間病院にも負けない高度で良質な医療の展開と民間ではできない不採算な部門もカバーしていく必要があると考えます。

 また、少し青いと言われるかもしれませんが、「世の中の役に立つ人間になりたい」と思って医師になった初心や使命感、プライドをできるだけ摩耗させずに仕事ができるところだと思います。その使命感やそこから享受できる充実感を医療従事者も事務職員も一緒になって感じられる職場をつくることが院長の大事な仕事だと思います。それが結果的に住民のためになると信じています。

 良質の医療の提供はもちろんですが、地域医療においてそのリーダーシップを発揮することも基幹病院として大切な役割だと思っています。特に最近では病院の機能分化が重要視されるようになって、我々急性期病院と周辺の回復期病院や維持期の病院、いわゆる慢性期病院やかかりつけ医との棲み分けがされつつあり、その医療連携が最も重要で、我々はその主導的立場で活動を行っています。

 幸いこの地域は医師会の組織もしっかりしており、病院間の連携も極めて良好で協力的です。したがって、我々が声を挙げると、こぞって賛同していただき、計画を実現することができやすい環境にあります。

 現在脳卒中の前方連携として「t‐PAホットライン」、後方連携としての「脳卒中連携パス」がうまく稼働しています。「脳卒中連携パス」は今治地域の脳卒中に関わる医師で作業部会を構成し、試行錯誤で作成していきました。現在そのパスが愛媛県全域で使用されるようになっています。

 「t‐PA ホットライン」について申しますと、現在脳卒中疾患で一番多いのが脳梗塞です。脳梗塞発症後4・5時間以内に投与すると効果の期待できるt‐PAという薬剤が認可されて以降、この薬剤を多くの患者さんに投与できる医療インフラがあるかどうかでその地域の脳卒中治療の質の高さを評価される時代になっています。当地域では以前より非常にすぐれた輪番制の救急体制が運用されています。しかしこれは一般の救急体制であり、担当は一般内科もしくは外科のため、この超急性期脳梗塞治療には不向きです。そこで、発症から3・5時間以内に、t‐PA治療が可能な3つの脳神経外科の病院に搬送できるシステム「t愛媛県立今治病院 院長 藤田 学2014年12月20日(毎月1回20日発行) (第18号 通巻607号)医療でまちづくりの一翼を担う‐PAホットライン」を2010年に開設しました。これは現場に駆け付けた救急隊員が脳梗塞の疑いがあると判断した時、直ちにホットライン当番の病院に連絡し、直接その病院に搬送するシステムです。こういったシステムの運用はリーダーシップも重要ですが、周辺病院や、救急隊の理解や協力なければ当然実現は不可能です。

 最後に「街づくり」における当院の役割について少し触れたいと思います。街づくりに大事なのは経済、教育、医療の3つだと考えます。今治の経済では造船やタオルが頑張っています。教育でもこの地域の教育レベルは高く、有名な今治西高は野球でも大学進学でもよい成績を残しています。

 我々のできることは医療しかありません。なかでも、前述の脳卒中治療も大事ですが、これからの街づくりを考えた場合、なんといっても若い夫婦がここに住み、子供をもうけ、安心して生活できる場所にすることだと思います。

 その意味で当院は地域母子周産期センターを整備し、小児科医5名、産婦人科医3名を配置し、その任に応えるよう日々努力しています。周産期医療、小児科医療を通じ、若い夫婦、子供たちが安心して暮らせる街づくりの一翼を担っていきたいと思っています。


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