サイエンスとアート、そしてハートで

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大分大学医学部 消化器・小児外科学講座 教授 猪股 雅史

1988 大分医科大学医学部を卒業し同附属病院研修医 1990 国立病院九州がんセンター外科 1992 国立大分病院消化器外科 1993 大分医科大学大学院医学研究科入学 1994 国立がんセンター研究所病理部 2010 大分大学医学部総合外科学第一准教授 2011 米国コーネル医科大学大腸外科Visiting Fellow 2014 大分大学医学部消化器小児外科学講座教授 現在に至る。専門領域は消化器外科、内視鏡外科、腫瘍外科学。

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大分大学病院屋上のヘリポートで。前列左から6 人目が猪股教授。向こうに見えるのは由布岳。

 昨年から大分大学では外科と内科の講座再編があり、私は外科の中で、消化器・小児外科講座の教授に就任しました。10月1日からなので、まだ1か月ほどです。

 講座再編の目的は、若い人たちのキャリアパスを効率よく、卒前卒後の研修をやりやすくするためです。

 外科系というのは、手術を治療手段として持っている科のことで、手術によって患者さんを助けられる病気でもっとも多いのは、がんです。外科の手術は非常にニーズが増えてきて、①病気を治す②安全に手術する③患者さんの負担を少なくするための低侵襲④機能の温存という4本柱で手術をしています。

 それ以外の目標として、薬で治らないような病気の治療、そして腹部救急疾患、急性腹症、あるいは交通外傷などを、迅速に判断して治療するのも我々の仕事です。

 がんの手術には、早い時期と進んだ時期があり、いちばん力を入れているのが低侵襲のための腹腔鏡手術です。お腹を切らずに小さな傷で手術できるために注目されています。20年間この治療を進めて、傷が小さいというだけでなくいろんなことがわかってきました。

 それは、臓器をその場所に保ったまま手術できるため、空気や空気中の細菌に触れないとか、視野を拡大することができるため、より正確な手術ができるということです。根治性や、血管や自律神経も含めた機能温存の面からも、腹腔鏡手術は優れています。

 しかし優れているだけに、医療者側の技術と、内視鏡の機器や器具の技術の双方から見て、従来の開腹手術と比べて遜色のない治療ができるだろうという適応を、段階的に拡大しながらやっています。

 薬の臨床試験や治験と同じように、手術療法も最近は、病院の枠を越えて臨床試験を行ない、評価をして適応を拡大しようという流れがあります。

 私の専門領域は特に大腸で、2004年から、国内の先進的な30施設で、1050人の患者さんに厚労省の科学研究費を用いて、開腹手術、腹腔鏡手術を、多施設共同でランダムに行なって評価するという第Ⅲ層試験をやり、腹腔鏡手術にどんなメリットがあって、どこに注意喚起が必要かということを明らかにしています。もう10年経ちましたから、最終報告を来年1月に、米国サンフランシスコで開かれる臨床腫瘍学会(癌治療学会)で報告する予定です。

 ですから、ある人たちがここまで出来るからと言ってどんどんやるのではなく、科学的な方法できちんと、安全に適応を拡大していこうというのが現状です。

 もうひとつ、医療の機器や器具=デバイスもこの10年でかなり進歩してきました。しかし腹腔鏡手術の弱点として、鉗子の可動域や内視鏡に制限があり、これを解決すべく、医療者側と企業とがタイアップしながら、より優れたものを開発しています。

 もっとも進んだものとして、ダ・ヴィンチによるロボット手術があります。操作する際に触覚はありませんが、関節の可動域が非常に柔軟で、しかも3Dで見ることができるというメリットがあります。大分大学でも昨年からダ・ヴィンチ手術を行なっていますが、ランニングコストが非常にかかりますから、医療経済からみて、メリットについていっそうの評価が必要です。

 これからは、ダ・ヴィンチを使わなくてもいい場合は内視鏡手術でいいし、開腹手術でやるべき手術もありますから、腫瘍側の安全性と生体側の安全性の2つを担保しながら、症例ごとに分かれてくると思います。

 これからは、ダ・ヴィンチを使わなくてもいい場合は内視鏡手術でいいし、開腹手術でやるべき手術もありますから、腫瘍側の安全性と生体側の安全性の2つを担保しながら、症例ごとに分かれてくると思います。

 そしてこれからはスーパードクターを目指す時代ではなく、腹腔鏡手術を知識と技術、サイエンスとアートの観点から、プログラムされた教育が強く求められます。当大学でのトレーニングは4段階に分けられ、1つ目はトレーニングボックス、次に3Dモニターのあるシミュレーター、次に動物を使っての訓練で、大分大学では来年3月完成を目指して、アニマルラボをつくっているところです。

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「医学と看護社」より出版予定

 実際の手術でも、習熟度によって3段階の難易度に分けたカリキュラムがあり、それ以外のところは指導医が担当します。それを2006年からやってきて、治療成績は論文として発表され、テキストとしてもいくつか販売され、全国でもよく売れているそうです。(=右の「消化管がんに対する腹腔鏡下手術のいろは」参照)

 私が教授として進めていきたいのは人材育成で、若い外科医には3つのことを学んでほしいと思います。

 1つは当然のことながら手術手技です。これがアートの部分です。そして知識をきちんと持たなければ手技が生かせません。ここはサイエンスです。3つ目がハートです。これをそれぞれ磨いていかなければなりません。

 この3つを備えた上で、私が求めるのは、全人的な医療が出来る医師です。さらには自分のいる地域を愛せること、そしてグローバルな視点も持っている人材です。

 私たちは常に命と向き合っています。それを重荷に感じてつぶれたり、逃げたりするようなことがあってはならない。命と向き合う勇気を持ち合わせていなければなりません。最後に、病気を科学できる心を持った人です。これらを身につけてもらうためのプログラムをいま作成しているところです。プログラムにないところは指導医が姿勢で示し、それを伝えていくことが必要です。そこを堂々と看板に掲げたい。

 患者さんが大人であれ子供であれ、不安に思っていることや心配していることをきちんととらえてあげることが大切で、難しい病態であっても不安を取り除ける言葉や接し方の技量を持った医師になってもらいたいです。全人的医療というのはそういうものです。

 当大学のカンファレンスではそこに力を入れ、治療方針の決定は4つの柱で組み立てるという臨床倫理学に基づいてやっています。患者さんの病気の状態、体の状態、患者さんの希望や価値観、そして患者さんのQOLや周囲の状況です。

 それにどのように対応したかという全スタッフの経験や、悩んだケースなどをみんなで出し合い、学ぶ姿勢でやっています。それを知った全国の施設の医師から、参加してみたいとの要望が寄せられ、出版社から「消化器外科ベストアンサー=大分大学消化器外科CABSclub編」というシリーズで、もうすぐ発刊される予定です。

 私の基本は、私に接してくれた患者さんは、接する前よりは絶対に元気になって帰ってもらうことです。

 私が受験生のころ大分医科大学が設置され、入学した年に附属病院が出来ました。大分の患者さんは大分で治さなければならないと思って医師の道を志し、外科医になったのは、がんの治療ができること、そして、すぐに手術が必要な腹部救急の患者さんを、目の前で判断して治療するためです。外科医になってよかったと思っています。


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