広島から血液事業の発展を

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第38回日本血液事業学会総会 広島国際会議場 10月29日~31日

 10月29日から31日までの3日間、広島市中区の広島国際会議場で、第38回日本血液事業学会総会が開催された。総会長は日本赤十字社中四国ブロック血液センターの土肥博雄所長。主催者発表によると、参加者は1,025人、演題の応募数は288題だった。

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閉会式であいさつする土肥総会長。

 土肥総会長は開会あいさつで「今回シンポジウムは9つ用意し、会場のやりくりに苦労した。また3日間残っていただける講演者を多く招いた」 と述べた。会場は参加者には献血推進キャラクターの「けんけつちゃん」が描かれたもみじまんじゅうが配られた。会場は平和記念公園内にあり、参加証を提示することで広島平和記念資料館の観覧料が免除になるサービスもあった。

4人のスペシャリスト

 「今日の移植医療」と題されたシンポジウムで、座長と演者を務めた広島大学大学院医歯薬保険学研究院応用生命科学部門消化器・移植外科学の大段秀樹教授は、「土肥総会長に移植医療のスペシャリストを集めてくれと頼まれた。高校の後輩なので断れず、3人の素晴らしい移植医をお招きした」と、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科呼吸器・乳腺内分泌外科の大藤剛宏准教授、東京女子医科大学消化器外科の江川裕人教授、藤田保健衛生大学医学部臓器移植科の剣持敬教授を紹介した。

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座長の大段教授(右)と大藤准教授。

 大藤准教授は、ドナー不足を補う手術について講演。肺挫傷や肺のう胞のドナーから摘出した肺を、移植後レシピエントの体内で治すこともあるという。会場からのHLA(ヒト白血球型抗原)を考慮しないのかという質問に対しては「提供が少なく、重視できない現状だ」と答えた。

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江川教授

 江川教授は血液型不適合肝移植の現状を紹介した。脱感作には2006年から全例でリツキサンが用いられているという。2011年までに国内35施設で行なわれた633例のデータを詳細に示し、リツキサン脱感作療法が有効だと述べた。

 大段教授は、クロスマッチ陽性例について症例を示した。2008年に夫をドナーとする生体腎移植が予定されていた女性は、鼻血で貧血になり輸血を受け、その後クロスマッチテストが陽性、抗ドナー抗体陽性になったという。その後血液型不適合移植に準じた脱感作療法を行ない陰性化。移植から5年6か月が経過した現在も、問題なく健在とのこと。大段教授は「多くの症例を経験したが、リツキシマブとボルテゾミブを段階的に投与することで、重篤な感染症は認めなかった。高感作症例に対しても脱感作は可能」と述べた。

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剣持教授

 剣持教授は施設別の膵臓移植件数や、術中から移植後にヘパリンを持続投与する抗凝固療法などを紹介した。「脳死および生体膵臓移植は1型糖尿 病や1型糖尿病腎不全に極めて有効な治療法であることが、臨床的に示された。脳死ドナーを増やし、生体移植は緊急例や既存抗体陽性例などに、限定的に適応すべき」と述べ、今後の課題として血栓症対策、膵島移植との配分をあげた。

 最後に大藤准教授は、「今日の移植医療は、血液製剤に支えられている部分も大きい。血液事業にかかわる人々に感謝している」と、シンポジウムを締めくくった。

血液製剤の品質保証

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会場になった広島国際会議場は広島平和記念公園内にあり、原爆ドームにも近い。

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(写真上)血液製剤の品質保証にかんするシンポジウムで座長をしたマツダ㈱の竹内品質本部主幹(右)と日本赤十字社の日野製造販売総括管理監。(写真下)工業部品の品質管理について講演したマツダ㈱の水谷本部長。

 日本赤十字社血液事業括管理監とマツダ(株)の竹内稔美品質本部主幹を座長に、「信頼される製品の実現と品質保証」のテーマでシンポジウムがあった。近年血液製剤にも品質管理や品質保証が導入されたという。日本赤十字社の採血部門や品質情報部門、製剤部門など現場で働く人のほか、マツダ(株)原価企画本部の水谷智春本部長が、機械部品の品質管理について述べた。

 マツダ(株)では生産効率の向上や製造コストの低減などを目的として、広島市周辺の取引先をはじめとした企業・団体の品質保証に協力している。生産性向上、リードタイム短縮、不良率低減などのテーマを決め、週に1回の頻度で製造現場へ出向いているという。水谷本部長は「短期的なコスト削減ではなく、継続的 に協働するためには、サプライヤーが良好な状態でなければならない」と、取引先を含めたグループ全体のトータルベストを追及すると述べた。

 広島市中区にある日本赤十字社中四国ブロック血液センターも、マツダ(株)の支援を受ける組織の1つ。同製剤部門の原田博道氏は「支援を受け、ブロック内の製造所と各採血施設を1つの活動単位と考え連携体制について模索している。連携体制の構築は、血液製剤の品質保証上極めて有効であり、早期実現を目指したい」と発表した。

再生医療の今後

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上:京都大学中畑教授
下:広島大学の小林教授

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上:日本赤十字社近畿ブロック血液センターの河所長
下:広島大学の越智教授

 臍(さい)帯血中に自己複製機能をもった未分化造血幹細胞の存在を、1982年に示唆した中畑龍俊京都大学iPS細胞研究所副所長・臨床応用研究部門教授が登壇。座長は広島大学大学院医歯薬保険学研究院小児科学の小林正夫教授が務めた。中畑教授は1980年に南カロライナ医科大学に留学。その時長男が誕生したことをきっかけに、臍帯血の研究をはじめたという。

 中畑教授は、iPS細胞が今後パーキンソン病や脊髄損傷の治療に利用できるだろうと述べた。しかし患者本人からiPS細胞を作ると、拒絶反応 を回避できるが、費用と時間がかかるため、現在京都大学では、拒絶をおこしにくいHLA(ヒト白血球型抗原)型から作る細胞のストック計画が進められているという。またiPS細胞を用いた血液製剤の生産や免疫療法、病態モデルや創薬・毒性の評価などにも用いられるだろうと、未来の展望を語った。

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企業展示会場に置かれた㈱アペックス西日本のカップ式飲料自販機は、電気と水道が確保できれば熱湯が提供でき、カップ麺や粉ミルクの調理に使える。営業係の小松裕治さんによると、東日本大震災や、今年8月におきた広島市内の土砂災害でも設置され、多くの被災者や支援者に活用されたという。

 講演では、日本さい帯血バンクネットワークが今年3月に事業を終了し、4月より日本赤十字社が引き継いで運営していることも紹介された。

 また日本赤十字社近畿ブロック血液センターの河敬世所長を座長に、広島大学大学院医歯薬保険学研究院整形外科学の越智光夫教授が、軟骨再生移植の開発について解説した。これは、採取した患者自身の軟骨細胞を生体外で増殖させ、移植する手術。これまで130例以上が行なわれているが、良好な術後成績で、合併症もほとんどないという。この治療は2001年から確認申請をし、2013年から保険収載になった。適用は、膝関節における外傷性軟骨欠損症または離断性骨軟骨炎で、軟骨欠損面積が4㎠以上の軟骨欠損(変形性膝関節症を除く)。しかし2段階手術であること、採取できる自家軟骨細胞に限界があること、移植時に関節切開が必要であることなどが弱点であるという。

 越智教授は、ナノサイズの磁気ビーズを貪食させた間葉系幹細胞を体内に注入し、体外から磁場でコントロールする研究を紹介し、「新しい培養軟 骨移植術など、未来の医療は出番を待っている。期待して欲しい」と述べた。

肝癌ウイルスの疫学

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広島大学の田中教授

 広島大学大学院医歯薬保険学研究院疫学・疾病制御学の田中純子教授は、献血を契機に発見されたC型肝炎キャリアの初診時の臨床診断の内訳や、感染を知らないまま社会に潜在しているキャリアの推計のデータなどを示した。国別に見た肝がんの死亡率で日本は5番目に高く、また実際の死亡数は中国に次いで第2位であるという。肝炎は時代ごと、地域ごとに高低の特徴が異なるため、県ごとの対策が必要だろうと述べた。

 公的補助で肝炎ウイルス検査を受け、陽性と判定された2千177人の動向調査のデータも示された。「肝炎ウイルス検査を受けたか」の質問に対して「受けた」と答えたのは1千865人に留まり、うち「陽性だった」と答えたのは1千642人。実際に医療機関を受診したのは、陽性と判断された人の66・2%にあ たる1千442人だけだったという。

 また、2005年から2011年の輸血感染例から算出した感染リスクも示された。B型肝炎は、41万6千888本に1本、C型肝炎は833万7千754本に1本という計算になったという。

 4日から6日までの3日間、大阪市北区のグランキューブ大阪で開催される。総会長は日本赤十字社近畿ブロック血液センターの河敬世所長。


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