医療事故と法律17
11月1日には福岡で、8日には東京で、「患者の権利宣言30周年記念シンポジウム〜医療被害・薬害防止と医療基本法」が開催されました。
いま、わたしたち患者の権利法をつくる会は、医療基本法制定による患者の権利法制化を課題としています。患者の声協議会という市民団体、東京大学公共政策大学院医療政策実践コミュニティ(H―PAC)もわたしたちと連携してこの運動に取り組んでいます。また、日本医師会も、医療基本法草案を策定しており、今後、その立法化を推進する方針を示しています。
患者の権利の中核は、最善・安全な医療を受ける権利と、医療における自己決定権の二つですが、患者の安全な医療を受ける権利を脅かすものとして、医療被害、薬害の問題があります。今回のシンポジウムは、医療の憲法として制定されるべき「医療基本法」の中に、医療被害、薬害の再発がどのように位置付けられるかを考えようという企画でした。
福岡のシンポジウムで印象的だったのは、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会の事務局長をつとめる池田利恵さんからの報告でした。
子宮頸がんワクチンは、2009年10月にグラクソ・スミスクライン社のサーバリックスが承認され、2010年10月の閣議決定で、緊急促進事業として公費助成の対象となりました。その後、メルク社のガーダシルも承認され、2013年4月には予防接種法改正により定期接種となっています。これらの政策により、定期接種対象者(小学6年生から高校1年生の年齢にあたる女子)は自己負担なしでこのワクチンの接種を受けることができます。
しかし、接種を受けた後、それまでに経験したことのない激しい痛み、不随意運動、高次脳機能障害等の重篤な症状を呈するようになったという報告が相次いでいます。スクリーンに映し出された患者さんたちの不随意運動の激しさには思わず息を呑みました。水俣病の急性劇症患者の映像を思い出した人も多かったのではないかと思います。厚労省は現在、このワクチンの積極的接種勧奨を差し控え、副反応の追跡調査を強化する方針をとっています。一方、厚生省でこのワクチンの接種のあり方や副反応を検討している審議会の委員の多くがグラクソ・スミスクライン社ないしメルク社から寄付金や講演料を受けとっていたことが明らかになりました。追跡調査が適正に行われるのか、また副反応被害を受けた患者さんに対する救済はどうなるのか、ぜひ、これからも注目していただきたい問題です。
また、医療事故再発防止の問題については、福岡でも東京でも、医療安全調査機構事務局長の木村壮介さんにお話をいただきました。医療事故調査制度は今年の医療法改正によって法制化されましたが、調査・報告すべき事故の範囲や、調査のありかたの詳細については、そのガイドラインの検討会が一一月に発足します。医療提供者は医療事故に対してどう向かい合うべきか、医療事故調査に求められるものは何か、これもまた、みなさんにぜひ注目していただきたい問題であり、次回以降、その点について少し掘り下げてみたいと思います。
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