特定医療法人財団天心堂 理事長 松本 泰祐
1934(昭和9)年開設の松本医院を前身に、1980年に創立された天心堂。へつぎ病院を軸に、診療所や老人保健施設、健診・健康増進センター、さらには子育て支援施設などを運営し、幅広く医療福祉介護サービスを提供している。
超高齢化社会を見据えた同財団の取り組みを、昨年8月、新理事長に就任した松本泰祐氏にたずねた。
うちは社会医療法人財団です。この地域の保健医療福祉全体をみていく、簡単に言うと予防し、治し、自立を支える医療。現時点でこれが1番大事だと思っています。
天心堂は、へつぎ病院がスタートです。そもそも地域包括ケアをやろう、と建てた病院で、当初から往診、訪問看護、入浴サービスなどをやってきました。
大学が専門分化していった時代でしたから、そのころには見向きもされませんでした。でも高齢者の生活を支える必要がありましたから、これが地域のニーズだろうと思ってやってきました。
今は、国が「治す医療」から「治し支える医療」への転換を言っています。総合医の大切さが見直され、大学も地域医療に目を向けるようになってきました。とは言っても、まだまだですね。若い医師が一つのことを極めたい、完成させたいという気持ちはよく分かります。うちの若い先生も、往診をしている人はいません。「いかんよ」と言っていますが、治療に専念しています。専門教育しか受けていないので「できない」と言うんです。
人を診るより病気を診ているんでしょうね。本当はまず飛び込んでいってほしいと思うんですけどね。
今、往診に行っているのは、還暦を過ぎたわれわれ団塊の世代。まあ若い先生もいずれ歳をとるので、だんだん分かってくるでしょう。早く気付いてほしいと思っていますが。
看護師にしても、病院の看護師は在宅や訪問看護に理解が足りないです。それは、どこの病院でも一緒だと思います。うちでは、患者さんの退院に向けて、治す部門も支える部門も一緒に話し合う場を持って計画をつくっていますが、まだまだ浸透していないですね。
■短時間正職員制度で人材発掘、離職率低下
4年ほど前に短時間勤務の正職員制度をつくってからは、かなり看護師さんがきてくれるようになりました。夜勤や当直、土日祝日勤務の有無や、週に働ける時間に応じて、AからFのランクを設けています。それぞれの働ける時間帯を組み合わせていけば、なんとかなるのでは、という発想です。
子育てや介護で、働いていない看護師の発掘という意味もありました。離職率もかなり減りましたね。これは、社会的反響を呼んで、講演に呼ばれたりしましたし、導入しているところも増えています。医師不足、看護師不足ではないんですよ。いっぱいいるんです。世の中にちゃんと合った工夫をしていけばいいということですよね。
院内保育所、病児保育、学童保育、発達支援。子育て支援は4つ揃えているんですよ。利用者も多いです。本当はもう少しいい環境をつくりたいんですけどね、なかなかお金が追いつかないのが現状です。少子高齢化のこういう社会をつくったのは、われわれ団塊の世代。反省も込めて、やっていかなければと思います。
診療報酬の改定に併せ、今年10月に病室の再編をしました。一般を6床増やして124床にし、従来の亜急性期病室(15床)を地域包括ケア病室(20床)に。また回復期リハビリも4床増やして30床にしました。
大分大学や県立病院などで超急性期治療が終わっても、まだ家に帰れない人を受け入れて、しっかり家に帰る準備を病院内でしていただこうと考えています。
うちは、リハビリにものすごく力を入れています。リハビリセンターには65人ほどのスタッフがいて、院内のあらゆるところで歩行訓練などをしていますよ。そこで在宅まで持っていったら、その後は訪問リハビリ、訪問看護で支えます。
■来春には有料老人ホームを開設
今の問題は、若い人が都会に出て、家に帰っても誰もいないということ。自立できない人はどうするのか、ということで、来年3月に介護が必要な方を対象として有料老人ホームをオープンさせます。でも、低所得の高齢者は入るのが難しいんです。僕たちがすることではないかもしれませんが、その人たちを今後どうするのか、というのが頭の痛いところなんです。
■生活を見て、人を診てほしい
若い医師には、人を診て、その人の生活というのを本当に見て、考えてほしいなと思いますね。先天的なものを除いて、ほとんどの病気は食生活や習慣、環境から出てきます。
それから、自分1人の力で医師になったのではないということを考えてほしいですね。税金もかかっていますから、次世代のために貢献しないといけないですよ。それが社会の順番だと思います。