多様化した精神疾患 医療の枠を越えて

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第60 回九州精神医療学会 学会長 冨松 愈

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写真=左から冨松愈九州精神科病院協会会長(三池病院院長)、林道彦日本精神科病院協会常務理事(朝倉病院理事長・院長)、長谷川浩二福岡県精神科病院協会副会長(宗像病院院長)、鮫島文孝福岡県精神科病院顧問。

 九州精神医療学会は12月4日と5日、福岡国際会議場で第60回となる学会を開催する。学会長は冨松愈九州精神科病院協会会長で、第67回九州精神神経学会との合同開催となる。福岡市中央区にある九州精神科病院協会に冨松会長と役員を訪ね、同学会の歴史や精神医療の現状などについて聞いた。

西日本精神保健学会の沿革

 当学会は精神科の専門医の先生方で構成されている学会です。

 昭和31年に九州大学の中修三医学部教授が、精神科で働く看護師、保健師、医療社会事業家精神衛生担当吏員(今のPSW=精神保健福祉士)なども加えた部会を、西日本精神保健学会の一部門としてつくろうと提唱されてスタートしたものです。当時は中四国と九州が一緒になって勉強会をやっていました。

 昭和32年の第2回学会は九大医学部の講堂で開催され、中四国からも多数の参加があったため、総勢500人と盛況だったようです。そして平成14年、47回目を最後に、西日本保健学会は終了しました。中四国で独自に発表や討論の機会が持てるようになったことや、会費の集約が大変だったことが理由でした。

 それ以降は九州精神保健学会として、九州各県が持ち回りで、年1回開催するようになりました。そして平成25年の第59回大会から「九州精神医療学会」に名称変更し、現在に至っています。

広がっているうつ病と認知症

 かつて精神科といえば、統合失調症など、いわゆる精神病を対象とした科でした。その後、米国のDSM(精神障害の診断と統計マニュアル)が発表されたころから診断学が多種多彩になって、精神医学の対象が増えてきたわけですね。特に現在増えているのは、うつ病圏内の疾患と認知症圏内の疾患です。さらには更年期の精神障害とかの患者さんが増え続けて、今通院中の患者さんは320万人くらいと言われています。

 その一方で、入院している人は35〜36万人くらいをピークに微減して、現在は30万人を切っていると思います。そしてその半数が65歳以上の高齢者です。入院してくる患者さんは増えていますが、早期退院が増えて、長期の人だけが残って、退院や転院などによって入院患者が微減しているような状況です。

 うつ病圏が増えたことについてはいくつか説があります。診断基準の問題、うつ病啓発活動の効果、あるいは精神科の垣根が下がってクリニックにかかる外来患者が増えたことなどです。

 患者の増加パターンをみると、SSRIという系統の薬が発売されたあたりから急増しているんです。薬そのものの効果は旧来とあまり変わらないのですが、副作用が減り、併せて精神科だけでなく一般科でも抗うつ薬を使う頻度が増えています。そういったことがいろいろ重なってうつ病圏内が増加したのだろうと言われています。

 認知症が増えたのは明らかに高齢化が原因です。認知症の発生頻度は80歳を超えると10数%、85歳以上では35%くらいと急激に増えます。高齢化のの問題は医療では解決できません。

 在宅でのみとりを厚労省は国民に投げかけていますが、生きる意味をどうとらえるかということに対して、我々医療者は判断できる余地がなく、長生きできるよう医療者が努力する以外にない状況です。日本の社会全体で生きていく意味を考えるようになれば、ほかにもさまざまな医療の手立てができるのではないかと考えていますが、むつかしいところです。

 介護の問題も同じだと思います。ケアや介護の制度がサービス業として行き渡ってきました。そうなると事業として成り立つ介護サービスだけが残り、それ以外は切り捨てられることになりかねません。そういった問題を抱えつつ、我々が医療や介護に携わっているというのが現状です。

多職種が学びあう学会に

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12月4、5日に福岡国際会議場で開催。特別講演は山崎學日本精神科病院協会会長のほか、元ライブドア社長の堀江貴文氏が「挫折からの再出発」と題して話す。

 今回の学会のテーマは「多職種チーム医療の更なる発展を目指して」です。これまで精神科医療は医師と看護師が中心でしたが、精神保健福祉士、OT(作業療法士)、PT(理学療法士)、栄養士、薬剤師、介護職、訪問看護など、いろんな職種で患者さんを見守り、早く地域に帰してあげるという流れができてきました。

 学会のほうも60回を数えますと、精神科の病院に勤務している職種はほとんどすべてが集まるようになりました。

 先に述べましたように、精神疾患の多様化、高齢化という問題も避けられず、入院から在宅での生活も含めて、日常の介護や生きる目標、リビングウイルをどうするか、最終的にはどう死ぬかまでの問題が当然出てきます。病気だけを治せばいいという考えだけでは全然足りないのです。それらについて今は、現場で家族とも話し合い福祉と医療の中で経験してきたことを披露し合い、侃々諤々(かんかんがくがく)と論議していく時だと思います。それを学会が後押しできたらと思います。

患者家族もチームの一員として

 精神科医療では、保健・福祉・医療を一体供給するような方向が大きな流れで、それは欧米でずっと言われていたことで、それを支えるのがチーム医療、多職種恊働です。多くの職種が1人の患者に、いろんな方面から、意見や知恵を出し合って、QOLを上げていこうとする考え方をベースにしたやり方です。それが日本に定着してきたのは10年前くらいからで、きっかけは15年前に精神保健福祉士が国家資格になったことだと思います。

 精神保健福祉士は、福祉と医療の橋渡しだと言われ、資格になる前は全国の精神科病院で270人くらいでしたが、今は8千人くらいいます。そのことによって、精神科病院の地域における相談機能というものが非常に高くなりました。福岡の大きな精神科病院には複数いますから、診療所の先生方にはどんどん使ってほしいと言っているところです。

 我々の仕事は家族の協力も必要となってきますから、家族会や家族間の交流が生まれます。そのことで自然と患者と家族参画型となります。

 ですから今度の学会で何を成果と考え、どう評価されるかは、病院間、多職種間、あるいはチーム間の交流がどれだけ進むかだと思います。

 テーマになっている多職種のチーム医療はずっと前から言われていました。しかし現実には医師と看護師だけが精神科医療の担い手だと思われていた時代で、最近は歯科医や心理士まで参加するようになり、本当の意味でのチームの輪ができてきています。


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