重篤な患者を、移植せずに回復させる

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香川大学医学部 心臓血管外科学 教授   堀井 泰浩

堀井 泰浩(ほりい たいこう)1988 大阪医科大学卒 虎の門病院外科研修医 1992 三井記念病院心臓血管外科研修医 1994 同循環器センター外科医員 米国臨床留学(ECFMG)ユタ大学関連LDS病院胸部外科フォロー 1996 湘南鎌倉総合病院心臓血管外科医員 葉山ハートセンター心臓血管外科医長兼務 2001 京都大学医学部附属病院心臓血管外科医員 2003 葉山ハートセンター心臓血管外科医長 2005 香川大学医学部第一外科学助教授 2006 同学部心臓血管外科学教授

教室について。

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 消化器外科とともに、第一外科が前身です。私が赴任した平成17年10月は、主宰される前田肇教授が副学長になり退官され、助教授も不在という状態でした。平成15年の大学合併による影響が少し残る時期だったのだろうと思います。

 先代の前田教授は心臓血管外科が専門で、以前から講座は分けた方が良いだろうと考えられていたそうです。平成18年に第一外科は2講座に分かれ、以後心臓血管外科は私が主宰しています。心臓血管外科はほかの外科とは違いますが、講座を分けるのは教授一人の考えではできません。大変な苦労があったと思います。

 私は赴任するまで香川には全く縁のない人間で、四国に来たこともありませんでした。教授も含め、大学の先生方とも全く交流はありませんでした。なぜ私に白羽の矢が立ったのかは分かりませんが、来てみると住みよい町で、良いところに来たという思いはあります。

 高校は3年間北海道の函館ラ・サール高校に通いました。函館は北海道の人に言わせれば暖かいらしいのですが、私は寒く感じていました。それと比べて香川は過ごしやすい気候だと思っています。私はどうやら、海や湖など、水辺の町に縁ができるようです。うどんも以前から好きでしたから、高松を気に入っています。もちろん大学も職場として良いところです。

 香川は渇水が多く、市中の病院では血液透析ができなくなることも過去にあったらしいですが、私の赴任以降は断水もありません。うどんの影響で高血圧や心臓の病気が多い地域でもありますね。

ユタ大学関連病院で臨床トレーニングをしていますね。

 平成6年に留学していました。

 ソルトレイクシティでは、すでに冬季五輪の開催が決定しており、豊かな町がさらに活気づいたころでした。モルモン教の本拠がある門前町で、戒律のために平和な町です。日本人の留学にはおすすめですね。生体工学の分野などで日本からの留学が多い町だったらしいのですが、私は単身で行きましたし、勉強で手一杯でしたから、日本人との交流はほとんどありませんでした。外国人の友達がたくさんできましたけどね。

 大学の附属病院は、80年代に歯科医のバーニー・クラークさんという人に、世界で初めて完全埋め込み型の人工心臓を手術したことで知られています。しかしトラブルもあり、長く中止していました。その手術の再開の時期に、ちょうど私は留学することになります。知らずに行ってみたら、世界最先端のそれを手伝うことになった、というのが実際です。牛に埋め込む実験の段階から本格的に参加していますが、本当はそれを学びに行ったわけではなかったんですよ。

 大阪医大を卒業した後、虎の門病院での外科医研修を終えて須磨久善先生の教えを受けるため、三井記念病院(東京都千代田区)に勤務しました。私の心臓血管外科医としての経歴は、この病院から始まっています。須磨先生は大学の先輩で、私の学生時代は大阪医大で仕事をされていました。当時の日本人で、世界に向けて自分の手技を発信している人は珍しかったので、尊敬していました。

 その師匠筋の須磨先生の紹介で、ユタ大学関連病院に行きました。先生は若いころに見学に行かれており、留学先のドティー教授と交流があったのだそうです。しかし須磨先生も、移植再開の時期に当たるとは思っていなかったようです。

 日本に帰ってきてからも少し、埋め込みの手術をしましたが、それは私の専門ではありません。「できる」という程度です。

専門は。

 師である須磨先生は、冠動脈のバイパス手術で世界的に有名で、胃袋の周りの動脈を世界で初めてバイパスに用い、学問的に認めさせました。私が留学したのも、一つは胃大網動脈のバイパス手術を日本から伝えるためだったのです。私自身の専門は、冠動脈の手術になります。

 また、帰国してからは湘南鎌倉総合病院に勤務し、須磨先生の日本初のバチスタ手術を手伝いました。当時は心臓移植の法案がまだ通っておらず、人工心臓でしか助かる方法がないと思われた人を治す手術でした。この手術が有効であることを広めた仕事でもあったと思います。

 現在香川大学では、人工心臓や心臓移植の手術はしていません。心臓移植が必要と判断されるような重篤な患者さんの心臓を、移植せずに生活できるレベルにまで回復させるという治療を熱心にやっています。車で例えたら、エンジンの載せ替えではなく、気筒を減らして動かすような対処です。心臓はエンジンと違い、動かしながら手術をしなければいけませんし、手間のかかる大変な手術です。誰もが移植を受けられるわけではありませんから、とても難しく面倒ですが、ほかにできる人が少ない手術ですし、今後もこの技術を伝えようと考えています。

 四国中から患者さんを紹介されていますし、名古屋から紹介されることもあります。将来的には人工心臓や心臓移植を香川大学でも視野に入れるべきでしょうが、患者さん本来の心臓を治す手術は、大切にしたいですね。

内科との協力関係が強いと聞きます。

 教授になってすぐに、病棟の改変を当時の長尾省吾病院長(現香川大学学長)に頼みました。病院や手術室を新しくするのは困難ですが、病棟改変ならばなんとかなるだろうと考えたのです。当時は外科と内科で分かれており、消化器で入院している患者さんと、心臓の患者さんが隣に寝ていました。臓器別に改変してからは、循環器内科と協力しやすくなりましたね。

 今は新病棟が建ち、3階に7月から心臓血管センターができました。心臓血管外科と循環器内科が共働しており、私は副センター長です。同じ階にCCU6床も備えています。

地域医療についての考えを。

 心臓血管外科の治療を必要とする人は、一般外科の患者さんほど多くありません。先代が講座を分けられたのも、消化器外科との忙しさの違いがあるからだと思います。

 しかし医療の質を向上させるには症例数が必要です。だから心臓血管外科が多くの病院に点在することは、医療の質を下げることになりかねません。地域の医療を守るということは大切なことですが、心臓血管外科を含む循環器治療は、施設集約してなるべく集中する体制のほうが良いと私は考えています。


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