にのさかクリニック・バイオエシックス研究会 米沢慧「いのちを考える」セミナーより

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=老揺期と身寄り(being)= 【鐘ヶ江 寿美子】

かねがえ・すみこ=医療法人ひらまつ病院/ひらまつ在宅療養支援診療所院長 1989 年佐賀医科大学卒(現 佐賀大学医学部医学科) 2005 年豪州 ニューサウスウェルズ大学公衆衛生修士課程 2010 年佐賀大学医学部大学院博士課程
■専門領域=一般内科 在宅医療 老年医療 認知症ケア■資格=日本内科学会 総合内科専門医 認知症サポート医

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 超高齢社会となり、多死時代を迎えつつある。医療や介護の現場だけでなく、一般市民の日常生活でも死を迎える人、命の危機に直面している人との関わりが増えている。ケアを受ける人は高齢者だけでなく、癌、難病、その他疾患や障がいとともに生きている人々が含まれる。介護者は家族に限らず、医療や介護の専門職から一般市民にいたるまで多様である。

 福岡市早良区野芥にある、にのさかクリニック(二ノ坂保喜院長)では、バイオエシックス(生命倫理)の考え方を基本として、現代社会において医療や人権をどのように捉えて行動していくのかを学ぶバイオエシックス研究会を開催している。その中の「いのちを考える」セミナーは、作家米沢慧氏を講師に迎え、長寿社会、多死時代において尊厳的に生きることを医療や介護にとどまらず、歴史や社会学、教育学、宗教学等より包括的に議論する場である。老年期の意味、高齢者のアイデンテイテイ、家族の問題、認知症や看取り等、示唆に富む内容である。その中より老年期(老揺期)とそのケアの考え方についてご紹介したい。

 高齢社会の今、老年期は長期化している。健康状態が悪化し、介護が必要となる期間を米沢氏は「老揺期」と名付ける。貝原益軒の養生訓によると、いのちのすがた・かたち(身)は耳(聴く)、目(見る)、口(喰う)、鼻(嗅ぐ)、形・頭身手足(動く)であらわされる五官と、二便(小便・大便)および洗浴という(いのちの)役割や機能で表現される。老揺期はその五官のバランスが揺らぐ時期を指す。

 貝原益軒の時代に比し、医療の発展により治癒や回復が可能となった疾患や病態は多いが、衰えた脳の修復は今だ難しく、「認知症」は五官の衰退の典型(シンボル)ともいえる。老揺期はいのちのすがた・かたち(身)の衰えという危機的状況であるが故に、人間の英知と愛、やさしさが試される重要な時期であると米沢氏はいう。老揺期はケアを要する時期であり、介護は「五官の揺れとのつきあい」ととれる。となれば、やさしく一緒に「揺れ」に同調、共鳴してくれる人に介護してほしいと誰でも願うだろう。

 老揺期は自分の存在が危うくなる時であり、いのちの「よるべなさ」が問題となるが、家族構成の変遷に伴い、独居や介護施設で暮らす高齢者が増加している。

 老揺期の人々を受けとめる存在として「身寄り」という考え方がある。ここでいう身寄りは身内ではなく、他人でもなく、よるべのない人に寄り添う人を指す。身寄りには「介護する」(doing)ではなく傍に「いる」(being)のまなざしがあり、その根っこには「やさしさ」(愛)が見られるとし、米沢氏は宅老所「よりあい」の取組を紹介した。

 「よりあい」では、(認知症)高齢者の「身寄り」として、彼らの生き方を尊重し、生活をともに創り、being の姿勢を実践している。よりあいの代表である村瀬さん、下村さんもセミナーに参加されていた。

 村瀬さんは、「認知症の人には過去を失う切なさと、この瞬間を乗り切る力強さを感じる」と宅老所での体験を語った。自らの仕事を「老人との戯れ」と表現し、「最近は戯れを阻害する社会」の存在を感じると続けた。それは多くの介護施設が苦悩するリスクマネジメント、家族・施設間の責任のシェアなど倫理的ジレンマも含まれる。「よりあい」は、一人ひとりの高齢者を特別な存在として、やさしく包み込む「居場所」なのだろう。

 「Being のまなざし」は、日本各地でみられる。被災地、岩手県大船渡市には2014年6月に「居場所ハウス」がオープンした。居場所ハウスでは地域の子供〜お年寄りが集い、各々自分ができることを行い、時間をともにするスペースである。このプロジェクトの代表の一人である内出幸美さんは、高齢者ケアはCureやCare の時代を卒業し、コミュニテイによる支えあい「Reciprocity」(共生)の時代に入ったと話す。東北では極当たり前である「お互い様」の精神である。震災直後の認知症高齢者の介護現場は大変だったが、この「お互い様」の精神が高齢者と介護職員を救った。家族の安否も分からず、介護施設に寝泊まりしていた職員は、施設の高齢者に添い寝していたことで自らも「平静さ」を保てたと回想する。九州の「よりあい」の活動と通じるところが多く、興味深い。

 「心は身の主なれば、安楽ならしめて苦しむべからず」。五官をコントロールしているのは「心」であると貝原益軒は言っている。五官が衰えた老揺期も「心」のありようで、その意味や価値の解釈が違ってくるのであろうか。私達は老揺期の「心」について考える必要がありそうだ。


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